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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-

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 今回、命を狙われているのはトッシュであり、たまたま自分はそこに居合わせただけだとセレンは考えたのだ。鬼兵団が帝國の差し金でトッシュとジードを狙ったなど、結びつかなかったのだ。だから教会にまでは手が伸びていない――と。
 玄関に手を掛けた。鍵は閉まっている。それだけでセレンは安心してしまった。危険や危機感にうといのだ。
 鍵を開けて住み慣れた場所に入った。
 住み慣れた場所だからこそセレンは小さな違和感を覚えた。
 何が起きたのか、何が違うのか、そこまではっきりとわかる感覚ではなかった。
 しかし、それはセレンを警戒させるに足るものだった。
 バスルームから気配がした。
 セレンは武器になりそうな物を探した。モップでもなんでもいいが、なにもなかった。取りに行っている間に、気配を見失ってしまうかもしれない。
 昔はハンドガンを忍ばせていたが、自分には扱えないと痛感したときから、持ち歩くことをやめてしまった。
 ドアの前に立ったセレンは、聞き耳を立てて中の様子を探ろうとして、耳をドアに押しつけようとした。
 そのときドアが開いた!
 ドアが向こう側から引かれ、寄りかかる物を失ったセレンはバランスを崩してしまった。
 そして何かにぶつかった。
 セレンの頬がぶつかったものは人肌だった。
「きゃーーーっ!」
 叫んだセレンは慌てて飛び退いた。
 そして、見たのだ――。
「あ、あなた何者ですか!!」
 全裸の男を。
「そちらこそ何者ですか?」
「そ、そそそ、そんなの、そんなことよりソレ隠してください!」
 セレンは手で目元を多いながらソレを指した。
 空色の髪が印象的な青年は、少しはにかんでタオルを腰に巻いた。
「入浴後はいつも裸で過ごすクセあるんだ。ごめんよレディーの前で、すまないことしちゃったね」
 タオルが巻かれてもセレンは視線を合わせられずにいる。顔は真っ赤だ。
「そんなことより、あなた何者なんですか!」
「そんなことって言うなら、タオルもう一度外しましょうか?」
「あ〜〜〜っもぉ、だからあなた何者か聞いてるんです!」
「それはこちらのセリフですよ。そちらこそ何者ですか?」
「ここに住んでいる者に決まってるじゃないですか!」
「あぁ〜っ、どうりでそんな格好をしていると思いました、ここのシスターさんですか」
 青年は手のひらの上でポンと手を叩いた。
 すっかりこの青年のペースになってしまっている。
 セレンはパニックになりかけていた。
 緊張の糸を張り詰めて、もしかして危険があるのではないかと思っていたところに、こんな男が現れた。悪人には見えないが、明らかに不審人物だ。
「わたしのことなんていいですから、あなた誰なんですか!」
「申し遅れました、僕は愛の吟遊詩人です」
「はい?」
「正確には愛の吟遊詩人をしながら、各地でバイトして旅をしているトレジャーハンターです」
 トレジャーハンターという言葉にセレンは聞き覚えがあった。トッシュも同じ職業を自称していた。
「吟遊詩人とかトレジャーハンターとか、わかりません!」
「吟遊詩人というのはね」
「説明しなくていいですから早くここから出てって行ってください!」
「ここ教会ですよね?」
「そうですけど?」
「僕困ってるんです。旅暮らしをしていると、安全で清潔な寝場所を探すのが大変で。ここを見つけたときは、廃墟の教会を見つけてラッキーっと思ったんですけど、シスターがいるなら改めてお願いしたいと思います。何日かここに泊まりますから、よろしくお願いします」
 泊まらして欲しいのではなく、泊まるとすでに決めた発言だった。
 こんな強引な青年だが、?困っている?と聞いてしまっては、セレンはそれに弱かった。
「……わかりました、明日の朝までなら」
 見ず知らずに今出会ったばかりの、しかも勝手に上がり込んでシャワーを使うような男を、この場所に泊めることが危険だというのはセレンも承知だ。わかっていながらも、困っている人を見捨てられないのだ。
 青年はセレンの両手を掴んで固い握手をした。
「ありがとう女神様。あなたは僕の命の恩人です、ありがとうありがとう!」
 握手をしている最中、はらりと青年の腰のバイスタオルが落ちた。
「……きゃーっ変態!」
 セレンの平手打ちが青年の頬をぶった。
 頬を紅くした青年は笑っていた。
「ごめんごめん、取れちゃったみたい」
「わかってますから早く着替えてください!」
「それが……洗濯しちゃったんだよね」
「…………」
 セレンは返す言葉もなかった。
 タオルを直した青年は尋ねてきた。
「それでどの部屋使っていいの?」
 マイペースだ。
「じゃあ……こっちの部屋で。あと神父様の服しかありませんけど、貸してあげますけど、ちゃんとここを出て行くときに返してくださいね!」
「神父様もいるのか。まあ教会なんだから当然だね。それでその神父様はどちらに?」
「……亡くなりました」
「あ、ごめん」
「べつに気を遣わなくても大丈夫です。今はわたししかいないんです」
 言ってからセレンはハッとした。もしも青年が悪い奴だったら、独りと知れたら余計に危ないではないか。泊める時点で十分に危ないが。
 泊めると決めてからもセレンはずっと後悔している。
「……はぁ」
「どうしたの溜息ついちゃって? やっぱりさっきマズイこと聞いちゃった?」
「違うんです、あなたみたいな見ず知らずの人を泊めるなんて莫迦みたいだと思って」
「そんなことないって、シスターは女神様だよ。見ず知らずがダメなら、ちゃんと自己紹介しようよ。ほかにもお互いのこといっぱい話そう、そうすれば友達さ」
 悪い人には見えない……だけかもしれない。
 不安は尽きないが、セレンは青年の笑顔を見ていると少し心がほぐれた。
 その笑顔に亡くなった神父の面影を見いだしてしまったのだ。
 神父とこの青年は歳が離れていて、顔もぜんぜん違う。けれど、神父も同じように笑うときは本当に無邪気そうな顔をするのだ。
 ぼうっと自分の顔を眺めるセレンを、不思議そうな顔で青年は見つめた。
「どうしたの?」
「あっ、いえ……べつに……ええっと、なんの話をしてたんでしたっけ?」
「自己紹介しようよ。僕は自然を旅するのが大好きな愛の吟遊詩人――ワーズワース。君の名は?」
「わたしはセレンです」
「詩的な名前だね。歌がうまそうだ」
 褒められたセレンは少し頬を紅くした。
「べ、べつにうまくはありません。でも歌うのは……好き、かもしれません」
 急にセレンは早足で歩きはじめた。照れ隠しだ。
 セレンが案内した部屋は神父が使っていた部屋だった。
「ここを使ってください。あとお風呂と台所とトイレは自由に使っていいですけど、ほかはあまり勝手に使わないでくださいね」
「それだけ貸してもらえれば十分だよ」
「あと……わたしはまたしばらく教会を開けますから、明日になったら勝手に出てってくださいね、入ってきたときのように」
「僕ひとり残しちゃって平気かなぁ。僕が盗人だったらどうする気?」
「取られるような高価な物はありませんし、あなたのこと信用しますから」
 真面目な顔をしたセレンに青年は笑いかけた。
「ありがとうセレン」