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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-

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第2章 残された伝言


《1》

「そんな……」
 悲惨な顔をしてセレンが呟き、そのまま立ち眩みがしてアレンに支えられた。
 ただただ無残な光景だった。
 黒こげになって倒れている屍体。
 トッシュは直感した。
「あの炎使いの仕業かッ!」
 火鬼との関係を結びつけるのは当然。
 ここは地下にあるジードのアジト入り口だった。おそらく死んでいるのは門番の男だろう。
 すぐにトッシュはアジトの中に入った。
「フローラ、フローラ無事か!」
 トッシュの頭の中にあるのはフローラのことだけだ。周りの屍体には目もくれずフローラを探した。
 残る三人、アレン、セレン、リリスは慎重に先へと進む。
 セレンは震えながらアレンの腕を掴んでいた。
「こんなの酷すぎます。人間の仕業とは思えません」
 トッシュが目もくれなかった屍体。
 門番と同じように丸こげにされた屍体。生きたまま焼かれたため苦しかったのだろう。関節という関節が力強く曲げられている――藻掻いた証拠だ。
 ほかの手口で殺された屍体もあった。
 消失した顔。消失というより、抉られたような顔面だ。抉ると言っても乱暴なものではなく、まるで巨大なスプーンでゼリーを掬ったように滑らかな傷痕。
 顔を抉られているせいで、辺り一面血の海だ。
 丸こげの屍体と、顔を抉られた屍体がこの場に散乱していた。
 これまで生きている者などひとりもしなかった。まさかアジトにいた者全員、皆殺しにされたのか。
 トッシュはアジト中を駆け回った。
 残っている部屋は二つ。
 作戦室には顔を失い壁にもたれている屍体があった。
 そこから奥の部屋へと進む。
 トッシュがドアを開けた瞬間――。
「ギャアアアアアアッ!」
 男の絶叫。部屋の中からだ。
 椅子に縛られ両足の太股と両腕を切断された仲間の男。脚と腕はすぐそこに転がっていた。
 トッシュはすぐさま男に駆け寄った。
「大丈夫か!」
「……か……めんの……男…と……見た…ことも……ない衣装……の……派手な女に……」
 がくりと男の首から力が抜けた。男は話の途中で事切れたのだ。
 遅れてやって来たリリスはその部屋の仕掛けに気づいた。
「細い糸がドアから伸びておる。それに血の付いた切れ味の良さそうなピンと張られた糸もあるのう」
 それ以上言われなくても、トッシュにはわかっていた。
「これまで数え切れないほど殺しはやってきた。だがな、こんな胸糞の悪い殺しははじめてだ」
 自分の意志ではない。何者かの思惑通り、操られるままに人を殺したのだ。
 トッシュの心にあるのは怒りだ。鋭い野獣の眼が怒りに燃えている。
 そんなトッシュにアレンはさらに火に油を注ぐような真似をした。
「あの炎を使う尻が軽そうな女が絡んでるのは間違いねえな。だとすると、狙いはあんただろ、あんたのせいでここの奴らが殺されたんじゃねえのか?」
 悲痛な顔をしたセレン。
「アレンさんなんてこと……あっ!」
 その瞳が拳を振り上げたトッシュを映した。
「糞餓鬼ッ!」
 アレンはトッシュに殴られた。床に手を付いたが、反撃はしなかった。なぜなら、自分の瞳に映っている者を弱者だと思ったからだ。
「殴る相手が違うだろ。カッカッしてんじゃねえよ、まだフローラって女見つかってねえんだろ?」
「おまえに言われなくても探すに決まってるだろう!」
 トッシュは部屋を飛び出した。
 リリスも隣の部屋に移動しようとしていた。
「わしは適当に休んでおるよ」
 まったくこの事態に動じていない。他人事だ。
 恐ろしさで独りではいられなかったが、かと言ってリリスのように、待っていることもできなかったセレンは、アレンと共にフローラを探すと共に生存者も探した。
 アジトの中をくまなく探した。部屋を見渡すだけではなく、ロッカーなど人が隠れられそうな場所も探した。
 しかし、生存者は見つからなかった。
 ベッドの下に隠れていた男すらベッドごと焼かれて死んでいた。
 生存者はない。
 再び四人が集合して、トッシュがまず口を開いた。
「フローラはいなかった。誰の屍体はわからない奴ばかりだが、おそらくアジトの外にいて助かった者も多いと思う」
 屍体の中には女の屍体もあり、丸こげにされているせいで誰か判別できない者もいた。もしかしたらその中にフローラが混ざっていたかもしれない。
「俺様はフローラを必ず探す。おそらく外にいて助かっている筈だ」
 確証はなくても信じることはできる。
「じゃ、ここでお別れってことで」
 アレンは冷たく言った。
 悲しい瞳でセレンはアレンを見つめている。
「アレンさん、ここまで首を突っ込んでも手伝ってあげないんですか?」
「そんな義理ねえよ」
 だが、トッシュはきっぱりと言う。
「ある。俺様はおまえの命の恩人だぞ、フローラもそうだ。借りくらいちゃんと返せ」
「その女が死んでたらチャラだろ?」
「糞餓鬼、ぶっ殺すぞ!」
「頭に血の昇った莫迦なオッサンには負けねえよ」
 挑発に乗ってトッシュは〈レッドドラゴン〉に手を掛けた。
 しかし、銃が抜かれる前にセレンの制止が入った。
「二人ともやめてください。アレンさん、フローラさんを探すのを手伝ってください。わたしの借りでいいですから、アレンさんに借りを作りますから手伝ってください」
 そして、トッシュはなんとアレンに頭を下げた。
「すまなかった。今はひとりでも力を借りたい。フローラを探してくれ、頼む」
 そう来るとは思わなかったアレンは少し戸惑った。
「お、おう……頭なんて下げんなよ、俺の命の恩人だろ。借りくらい返してやるよ」
 アレンはリリスに顔を向けて話を続ける。
「姐ちゃんはどうする?」
「わしは街の様子を少し見て帰らせてもらうよ」
 リリスは風のように消えた。
 これから三人はどうするべきか?
 アジトの中はもう探し終えた。そうなると、今度は外となるわけだが、探す当てはあるのだろうか?
「ここ以外に隠れ家あんの?」
 アレンがトッシュに尋ねた。
「よく知らん。まだ仕事を手伝うようになって日が浅いんだ、新参に組織の秘密をベラベラしゃべるわけないだろう。だがおそらくある筈だ、こないだの作戦の時、知らない顔も多かったからな」
 セレンが話に加わる。
「ならほかのお仲間さんに連絡を取るのが先決じゃないでしょうか?」
「だから俺様は新参だったから、連絡系統とかほかの仲間とか詳しくないんだ」
 ほかの仲間と連絡を取ることが、フローラを探す手がかりにもなるだろう。これが当面の目的になりそうだ。
 三人いるのだから、三手に分かれたいところだが、セレンを一人にするのは危険だ。それにフローラがここに戻ってくる可能性も考えなくてはならない。
 トッシュはアレンとセレンに顔を向けた。
「おまえら二人でほかの仲間とフローラが探しに行ってくれないか?」
「は? なんで俺ら二人なんだよ、あんたは?」
「俺様はここに残る。フローラが帰ってくるかもしれない」
「なら俺がここに残るよ。一番楽そうだし」
「フローラとおまえ面識ないんだぞ? 屍体だらけの場所に見知らぬ奴がいたら、俺様の名前を出したとしても警戒されるに決まってるだろう?」
「そりゃそうだけど、ほかの仲間を捜すならあんたがいたほうがいいだろ?」