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世捨て作家
世捨て作家
novelistID. 34670
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LITTLE 第二部

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「沙耶原君、声が出せなくなっちゃったんだって」
「あ、それ知ってる。でも、どうして?」
「よく分からないけど、交通事故がどうとか」
 以外にも、麗太君が喋れなくなったという事に関しては、クラス中に広まっている様だ。
 声の主の大半が、クラスでは活発そうなグループの女の子達だった。
 そんな女の子達を、どうしてか男の子達は睨んでいる。
 麗太君の事に関して、勝手に何かを言われるのが気にくわないのだろう。
 しかし、ここで目立つような行動を取れば、これから女の子達から敵視される。
 きっと怖い筈。
 勿論、私もそうだ。
 同じ女の子をクラス内で敵に廻せば、教室で肩身の狭い思いをするのは間違いない。
 そうだ、マミちゃんなら。
彼女なら、女の子からの評価も良くて人望も厚い。
もしかしたら、どうにかしてくれるかも。
そう思い、マミちゃんの席の方を見た。
やはり、相変わらず窓の外ばかりを眺めていて、何かをしようとする気配は見られない。
ここは先生に任せるしかない様だ。
 教室の脇で、今まで皆の自己紹介を聞いていた先生が、麗太君に代わって喋り出した。
「沙耶原麗太君は、春休み中に色々あって、声が出せなくなっちゃったの。でも、声が出せないだけで、今までの麗太君とは何の変わりもないの。だから皆、沙耶原君の支えになってあげてね」
 納得した様に皆が「はい!」と返事をする。
 それを聞いて、麗太君は安心した様に席に座った。
 クラスメイトの皆が、先生の話を納得したかの様に思えた。
 しかし聞こえて来る。
「色々って何だろう」
「ママとパパの事とかじゃないの?」
「あ! それ有り得るかも!」
 女の子達の、麗太君に関する勝手な妄想話は未だに続く。
 もう我慢ならないよ!
 女の子達を敵に回したら、その時は何か打開策を考えれば良い事だ。
 立ち上がろうとした瞬間。
「いい加減にしろよ」
 男の子の怒り気味の声と、椅子を強く退かして立ち上がる音が聞こえた。
 私は数センチだけ浮かしたお尻を、再び椅子に落ち着かせる。
 声のした方を振り返ると、そこにはまるで中学生の様な容姿をした男の子がいた。
 男の子にしては少しだけ長い髪、高い背丈。
 たしか、光原綾瀬君だったかな。
 成績優秀でスポーツ万能な優等生。
 おまけに顔立ちも良いから女の子にモテモテ。
 男女問わず皆の人気者。
 そんな少女漫画のヒーロー的な存在、光原綾瀬君の事は、友達の話題によく出て来るので、なんとなく知っていた。
 同じクラスになったのは、今年が初めてだ。
 光原君が席を立ったからだろう。
 皆が彼に注目している。
「麗太の何が分かるっていうんだよ? 何も知らない癖に、麗太の事を勝手にどうこう言うのは気に入らないな」
 皆が光原君を見る目、それは男女問わず正義の味方でも見ているかの様な、期待に満ち溢れた眼差しだった。
 先生は光原君を止めようともせず、その光景をただ見ている。
「ごめん」
 一人が謝罪した。
 それに続いて、先程の女子グループの内全員が「ごめん」と口にした。
 光原君に注意された事がショックだったのか、彼女達は浮かない顔をしている。
「分かれば良いから」
 そう言って、彼は笑顔を振り撒く。
 彼女達は機嫌を取り戻したのか頬を赤らめて、それから何かを言う事はなかった。

 今日は初日という事もあり、昼前に学校は終わった。
 どうやら麗太君は、光原君や男の子達と帰る様だ。
 帰る家が同じだからといって、別に一緒に帰る義理はない。
 それなら、私はいつも通りマミちゃんと帰るべきだろう。
 学校に来る前に、ママにもいつも通りに帰ると言ってあるし、問題はない筈だ。
 教室の後ろのドアには、ランドセルを背負い、左手に巾着袋をぶら下げているマミちゃんが私を待っていた。
「優子、早くしないと先に帰っちゃうよ」
 そんな事を言っているが実際のところ、マミちゃんが私を置いて先に帰った事はない。
 新しく配られた教科書をランドセルに詰め込み、マミちゃんの元へ駆け寄った。
「よし、じゃあ帰ろっか」
 マミちゃんは少しだけ笑んで、「……うん」とだけ言葉を返した。

 学校からの帰り道である通りは、人や車の通りが多く、それに加えて帰宅中の私達と同じ小学生も、ちらほらと見られた。
 もう昼時だ。
 この時間になると無償にお腹が空く。
「今日のお昼は何かなぁ」
 呑気に呟くと、隣にいたマミちゃんはクスッと笑った。
「優子は呑気だね。その頭の中には三食の事しか入ってないのかな?」
「そんな事ないよ。昼時だから考えてるだけ」
「優子の母さんが作ってくれる昼ご飯?」
「うん!」
「そっか、美味しいよね。優子の母さんが作ってくれる物なら何でも」
 マミちゃんは、私のママと仲が良い。
 というより、マミちゃんが一方的に憧れている、とでも言うのだろうか。
 どうしてかママの前では、マミちゃんはいつもの様なクールな表情は見せず、敬語まで使って楽しそうに話しているのだ。
 それは私達がまだ小学二年生の頃、マミちゃんが初めて私の家を訪れた時からだった。
「ねえ、優子の家に寄っても良い?」
「え? なんで?」
「前に優子の家に行った時、優子の母さんから料理本を借りたから返そうかと思って。あんまり長く借りてるのも悪いし。それに、ほら」
 左手に持っていた金着袋を半開きにし、中身を見せてくれた。
 中には綺麗にラッピングされた数個のクッキーが入っている。
「優子の母さんに借りた料理本で作ってみたの。本を返すついでに食べてもらおうと思って」
 そういえばママは、マミちゃんの作ったクッキーを早く食べてみたいと言っていた。
 しかし、私の家には麗太君が一緒に住んでいる。
 もし、マミちゃんと麗太君が家で鉢合わせでもしたら……彼女はどう思うだろうか。
 クラスメイトの男の子と一緒に住んでいるなんて、マミちゃんは私の事をどう思うだろうか。
 せっかく、クッキーを作って来てくれたのだ。
 帰ってもらうにしても、なんだかマミちゃんに悪い。

 結局、マミちゃんを家まで連れて来てしまった。
 どうしよう……。
 今更、マミちゃんに帰ってもらうにしても、きっと彼女は聞かない筈だ。
 麗太君が先に帰って来ていませんように。
 無駄な祈りを込めて、玄関のドアを開けてマミちゃんを招いた。
「ただいま」
「お邪魔します」
 玄関に麗太君の靴がないという事は、まだ帰って来ていないのだろう。
「おかえりないさい」
 奥からママが出て来る。
「マミちゃん、いらっしゃい」
 ママを見るなり、マミちゃんは頬を少しだけ赤く染めて、料理本とクッキーの入った巾着袋を差し出した。
「あの、これ……作ってみたんです。よかったら……食べてみて、下さい」
 ママの前でのマミちゃんって、なんだか素が現われている様で可愛いな。
「はい、ありがとうね。そろそろお昼だから、マミちゃんも一緒に食べてく? 今日はチャーハンよ」
「良いんですか?」
「ええ、勿論よ」

 私とママ、その向かいにマミちゃん、
 テーブルの上には三人分の皿に盛られたチャーハン。
 どうやら麗太君の分はキッチンに置かれている様だ。
作品名:LITTLE 第二部 作家名:世捨て作家