小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
世捨て作家
世捨て作家
novelistID. 34670
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

LITTLE 第二部

INDEX|3ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

 どうにかして、麗太君が帰って来る前にマミちゃんには帰ってもらわないと。
「このチャーハン、凄く美味しいです!」
「そう、良かった。いっぱい食べてね。おかわりもあるから」
「はい!」
 ママの前でのマミちゃんは活気があって、学校では露わにする事のない表情を見せる。
 今から「帰って」だなんて、無茶なお願いは出来そうにない。
 麗太君が帰って来る前に、マミちゃんをどうにかしなければと考えを巡らせ、チャーハンを一口二口と口に運んでいた矢先、玄関のドアが開く音がした。
「あ、麗太君が帰って来たみたいね」
 ママは立ち上がり、玄関の方へ行った。
「え? 麗太君って……沙耶原……」
 驚いた様な顔をした後、マミちゃんはそう呟いた。
 麗太君が帰って来てしまった。
 もう、マミちゃんに何を言っても誤魔化す事は出来ない。
 そう悟った。

 ママは「花壇に水をあげて来る」等と言って、残したチャーハンをラップに掛けて外へ出て行ってしまった。
 私、マミちゃん、麗太君をリビングに残して。
 出されたチャーハンを黙々と食べている麗太君を、マミちゃんは怖い目でジッと見ている。
 どうやら麗太君は、ここにマミちゃんがいる事に関して、全く気にしていない様だ。
「あの……マミちゃん……」
 情けなく呼び掛けると、マミちゃんはテーブルを手の平で強く叩いた。
「どういう事か説明して欲しいんだけど」
 彼女の表情はいつも以上に不機嫌そうだ。
 正直に話せば、きっと分かってくれる筈。
「あの、これには事情があって」
「事情? じゃあ話してよ。大方、予想は付くんだけど」
「え?」
「沙耶原の母さんが死んだから、沙耶原は優子の家で面倒になってる訳でしょ?」
 彼女の言葉を聞いた麗太君は、チャーハンを食べる手を止め、マミちゃんを睨んだ。
 マミちゃんは、前から男の子に対しては常に敵対心を剥き出しにしていたけれど、今の発言はさすがに酷過ぎる。
「そういう事なんだけど……マミちゃん……駄目だよ。そんな言い方……」
「は? 優子も、優子の母さんも甘すぎるんだよ。いくら家が隣同士だからって、優子の家に沙耶原を居座らせる事はないと思う。それに、沙耶原の父さんは? どうして息子だけを隣の家に預けてるの? 沙耶原、父さんはどうしたの?」
 麗太君は今まで見せた事のない様な、不機嫌極まりない顔をして、メモ用紙にシャーペンを走らせた。
『天美には、僕の父さんの事も母さんの事も関係ない。お前にどうこう言われる筋合いなんてない』
 そう書かれたメモ用紙を見せられたマミちゃんは軽く舌打ちを鳴らし、麗太君を睨む。
「はぁ? 私は、あんたが優子の家にいる事が気に喰わないって言ってんの! 分かる?!」
『優子と優子の母さんは、ここにいて良いって言った』
「え?」
 拍子抜けした様な声を上げ、マミちゃんは悲しげに私を見た。
「優子……」
「マミちゃん……あの……」
 少しの沈黙が下りたすぐ後、ママが戻って来た。
「あらあら、どうしたの? なんか雰囲気が暗いわよ。もしかした、優子とマミちゃんで麗太君の取り合いでもしてたの?」
「ち、違います! そんな訳ないじゃないですか!」
 からかい気味なママへ、真っ先に反論したのはマミちゃんだった。
 それに続いて焦り気味に答える。
「からかわないでよ! そんな話してないから!」
「えぇー? つまんないの。私が皆位の頃は、興味本意でチューとかしてたんだけどねぇ」
「え? チュー?!」
 ママの言葉を聞いた瞬間、頬が熱くなった。
 きっと、かなり赤面している事だろう。
 しかし、マミちゃんと麗太君は先程と変わらず不機嫌そうだ。
 ママはそれを見兼ねたのか、私達に言った。
「食後だけど、お茶にしない? さっき、マミちゃんが持って来てくれたクッキーもあるし」

四人分の高そうなカップに入った紅茶と、先程のクッキーを皿に盛った物を、ママはテーブルの上に並べた。
 普段は紅茶を飲む際に、こんなカップは使わない。
 マミちゃんに対して見栄でも張っているのだろうか。
 皿に盛られた数個のクッキーから一つを摘まみ、口に運んだ。
 美味しい。
 口に広がった甘い味は、以前にママが作ってくれた物と同じ味がした。
 ママや麗太君も、私に続いてクッキーを食べる。
「凄い。私が作るクッキーと同じ味だわ」
「本当ですか!? 嬉しいです!」
 マミちゃんは嬉しそうに笑い、紅茶を飲む。
「この紅茶も美味しいですよ」
「そうでしょ。庭にあるプランターで植えた葉を使ってるの。前に、優子と麗太君で葉を摘んだのよ」
 そういえば、春休みに手伝わされた覚えがある。
 毛虫やらミミズで大騒ぎしている私やママを横に、麗太君は平気な顔をして虫を追い払ってくれたんだっけ。
 あの時は、さすが男の子だなぁと関心したものだ。
「え? 沙耶原が?」
「うん。麗太君、凄く頼りになったんだよ。私やママが虫を見て大騒ぎしてたら、麗太君が追い払ってくれたの!」
「そうそう。やっぱり男の子ね」
 麗太君は照れ臭そうに微笑み、紅茶を飲んだ。
「そう……沙耶原が……」

 それから私達は暫くの間、世間話やテレビゲームで盛り上がった。
 マミちゃんが麗太君と少しだけ距離を置いているのは、やっぱり気になったけれど。
「私、そろそろ帰りますね」
「あ、もう五時じゃない。そうね、そろそろ帰らないとね」
「……はい」
 帰り際、なぜかマミちゃんは、どこか悲しげな表情を浮かべていた。

 私はマミちゃんを外まで見送った。
 空はすっかり真っ赤な夕焼け色に染まり、遠くの方の空から見えるオレンジ色の陽が、とても綺麗で眩しい。
「マミちゃん、また来てね」
「うん。ありがとう、優子。またね」
 帰り道を一人で歩くマミちゃん。
 赤いランドセルを背負ったその背中は、学校で見せる強気な言動や表情とは裏腹に、とても小さく見えた。


 麗太君と光原君は、よく一緒にいる。
 あと、周りに男の子が数人。
 休み時間には、そのメンバーでサッカーをしている様だ。
 教室のベランダからは、校庭が一望できる。
「麗太、行ったぞ!」
 跳んで来たサッカーボールを麗太君は胸で受け止め、迫って来る相手チームの男の子達を、凄いペースで抜いて行く。
 そして、あっと言う間に点を決めてしまった。
 麗太君って、サッカー上手いんだ。
「優子、いつから男子の生態を観察する様な子になっちゃったの?」
 隣で一緒に試合を見ていたマミちゃんは、いつも通り不機嫌そうな口調で問うた。
「生態って……動物じゃないんだから……」
 今まで、こんな事をして休み時間を過ごす事はなかった。
 マミちゃんや他の女の子達と適当に何かを話し、ダラダラと過ごすだけ。
 今日は休み時間に陽の光に当ったせいか、どこか新鮮だ。
「沙耶原君って、今まであんまり目立つ様な子じゃなかったけど、凄く格好良いかも」
「えー、そうかな? 私は光原君かなぁ」
 隣にいた女の子達は男の子達の試合を見て、あの子が良いだのと議論している。
 皆、私よりも遥かに考えが大人だ。
「ねえ、優子は誰が好みなの?」
「は!?」
 いきなり質問を振られた為、そんな間の抜けた声を上げてしまった。
作品名:LITTLE 第二部 作家名:世捨て作家