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世捨て作家
世捨て作家
novelistID. 34670
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LITTLE 第二部

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Episode2 五年生 ~一学期~


 久しぶりに来た学校の門前には、桜が舞っていた。
 しかし、今はそんな物を観賞している暇はない。
 朝の会の始まるチャイムが、既に鳴っているのだ。
 五年生一学期の初日からの遅刻は、さすがに拙い。
 担任の先生の高感度は左右されるし、何しろ皆が席に着いている教室にドアを開けて入るのだ。
 注目される事は間違いないだろう。
 思いっ切り走ったせいか、息切れが激しい。
「麗太君、ちょっと、待ってよ! 足、速いよ!」
 その場に立ち止まって膝に手を着く。
 先にいる麗太君は立ち止まり、私の側に駆け寄った。
 胸を押さえて呼吸を整える私に、手が差し伸べられる。
「ありがとう」
 差し伸べられた彼の手を取る。
 麗太君は私に笑い掛け、昇降口まで歩きながら手を引いてくれた。
 もう完全に遅刻だというのに、焦る様子もなく。

 昇降口のガラス張りのドアには、新クラスの生徒表が貼られていた。
 この学校は市内で最も小さく、クラスは二つしかない。
 しかも一クラスにつき、生徒は二十余人程しかいなののだ。
 出席番号の一番目から順に名前を見てみる。
 五年二組の欄に私の名前がある。
 クラスも少ないせいか、知っている友人の名前ばかりが目に止まる。
「あ、マミちゃんの名前がある! マミちゃんも一緒なんだ!」
 マミちゃん。
 私の幼稚園の頃からの親友で、五年生になった今でも、クラスが離れた事はない。
 きっと毎年、先生がクラス替えの時に気を廻してくれているのだろう。
 そういえば麗太君は……。
 沙耶原麗太。
 男子の番号列を見ると、彼の名前も私と同じクラスの表に書かれていた。
「良かった。麗太君と同じクラスだよ!」
 麗太君も嬉しそうだ。
 しかし彼の声の事や、これからの友人関係を、クラスメイト達はどう受け止めるのだろうか。
 今までの様に会話が出来ない事を考えると、その影響は多大なものに違いない。
 それでも麗太君と出会ってからの短い期間、彼を嫌う様な事はなかった。
 きっとクラスの皆も、彼の事を受け入れてくれる筈だ。

 窓から注ぐ春の日差しは、教室の並ぶ長くて一直線な廊下を照らしていた。
 やはり廊下には誰もいない。
 皆が教室に入っているのだろう。
 二人で歩を忍ばせて廊下を歩く。
 二階廊下の一番奥。
 そこに五年二組の教室はあった。
 後ろには麗太君が、しっかりと付いて来ている。
 やはり、五年二組の教室は静かで、皆が席に座っている様だ。
 どうしよう、こんな状況で教室に入るなんて、なんだか恥ずかしい。
 それに麗太君もいるし。
 朝から男の子と一緒に登校なんて、きっと何か変に思われるに違いない。
 でも、このままでもいられない。
「行くよ」
 振り返る事なく、後ろの麗太君に小声で言うと、私は教室へ入った。
 皆の視線が私に集中する。
 恥ずかしくて頬が火照る。
 教室に入って、最初に目に着いたのは担任の先生だった。
 若くて、表情にはどこか幼さが残っている女の人だ。
「あら、初日に遅刻とはやってくれるわね」
 先生は、僅かに笑みを浮かべながらそう言った。
 笑みを浮かべているからこそ、どこか怖い。
「あの……えぇっと、寝坊……しちゃって……その……」
 言葉を探している私に笑い掛ける。
「分かったわ。いつまでも春休みの気分じゃ駄目よ」
 教室中がざわつく。
 笑っている人もいれば、どこか上の空な人もいる。
 そういえば、マミちゃんは……。
 教室内を見渡すと、窓際の一番奥の席に彼女の姿がある。
 マミちゃんは私を見る事なく、ただ無感情に窓の外を眺めていた。
「えっと、平井優子ちゃんね」
「え? あ、はい」
「私は藤原博美。今年から五年二組の担任をさせてもらいます。宜しくね」
 私は慌ててお辞儀をする。
「あっ、はい! 宜しくお願いします!」
 おかしい。
 どうして先生は、麗太君の名前を出さないのだろう。
 さっきから一緒にいるのに。
「麗太君」
 彼の名前を呼んで振り返ったが、そこに麗太君はいなかった。
「あれ?」
「どうしたの?」
「あの……私……」
 麗太君が、ここにいた筈。
 そう言おうと思った。
「……なんでもないです」
 しかし言えなかった。
 なんとなく、男の子と登校したという事実を、誰かに知られるのが嫌だったのだ。

 麗太君、どこに行ったんだろう。
 彼の事を心配しているうちに、朝の会は終了した。

 始業式は一時間目に始まる。
 皆が移動しようと廊下に出る最中、麗太君はこっそりと教室に入って来た。
 教室に入って来た麗太君に出くわした先生は、何かを察したように自分の自己紹介だけをして、彼を廊下に誘導した。
 おそらく先生は、麗太君の事情を考えた上で、あの対応をしたのだろう。
 今年の担任の先生は、なかなか親しみのある人の様だ。

「今朝の事です。皆さんがランドセルを背負って元気良く登校する姿。いやぁー、晴々しく思いますねぇ」
 壇上の上に立つ校長先生は、シワだらけの顔でにっこりと笑う。
 ママから聞いた話によると、校長先生は今年で定年なのだそうだ。
 だからPTAや若い先生達は、よぼよぼで今にも死んでしまいそうな校長先生に、かなり気を遣っているとかどうとか。
「あの人の話って長過ぎ。今年一杯なんて言わずに早く辞めれば良いのに」
 私の後ろで、冷たく呟いたのはマミちゃんだった。
 クールで、どこかお姉さんっぽくて、ちょっと毒舌なマミちゃん。
 それでも男女共に評判が良く、教師受けも良いらしい。
 密かな私の憧れでもある。
「話長い。あの校長、本当に辞めてくれないかなぁ」
 しかし、友人として性格や言動は理解しているつもりだ。
「マミちゃん、そんな事言ったら駄目だよ。校長先生は、もうあんなにおじいちゃんなんだから」
「おじいちゃんだからって、優しくする通りはないよ。老害って言葉、知らないの?」
 老害なんて言葉を聞いたのは初めてだ。
「え? えぇっと……」
 言葉に詰まる私に、マミちゃんは頬笑む。
「優子は優しいね。でも、優し過ぎると損する事もあるんだよ……」
「どういう事?」
 問い返した時、マミちゃんは私から目を反らしていた。
 マミちゃんは、知り合った時から妙な事を度々口にしている。
 彼女との付き合いは長いが、その言葉に隠された意味も、考えも、私には知る由もなかった。

 始業式の後、クラスで学級活動が行われた。
 当然の様に、最初はクラスメイト全員の自己紹介から始まる。
 どうせ、たった二クラスしかないんだから、殆どが顔見知りな訳だけど。
 麗太君はどうするのだろう。
 言葉を発する事が出来ないのだから、自己紹介以前の問題だ。
 そういえば、始業式の時にクラスの男の子達と楽しそうに笑っている姿を見た。
もしかしたら、私がそこまで心配する必要はないのかもしれない。
 皆が順に席を立ち、その場で自己紹介をする。
 数人の自己紹介が終わり、麗太君の番になった。
 おそらく、先生がフォローを入れてくれるに違いない。
 先生がどんな行動を取るのか、少しだけ気になった。
「次は……沙耶原麗太君ね」
 麗太君が席を立つと、教室に所々からひそひそと小さな声が聞こえて来る。
作品名:LITTLE 第二部 作家名:世捨て作家