彼女のいきかた
あれから何年過ぎただろう・・・。
『まだ何もできないあなた・・・あ、ごめんなさい。
あなたは、生まれて声を上げた。
おっぱいも飲んだ。
元気におしっこもしたし、うんちもしたね。
もうお腹のなかにいたあなたとは違う。
生きるために一生懸命動いたり食べたり眠った。』
彼女は、陽の差し込むリビングのソファーに腰を掛け、表紙の擦れたノートを開いた。
表紙には『育児ノート』と彩りよく書かれていたはずの字も何色か分かりづらい。
「母親って、母体に身篭って過ごすこの十ヶ月なのかもしれないな。
あとは愛情。慈しむ気持ち。お互いの思いやり。
万が一私じゃなくても、たぶん成長もするし、生きていけるのかも知れない。
『親はなくても子は育つ』なんて言葉だって真意はあっているかも」
彼女はノートを閉じて瞼を閉じた。