覇剣~裏柳生の太刀~
試合をする者は文武両道、道を究めていなければならない。
真剣勝負、かつて戦国時代が終わろうとし、徳川幕府の時代が始まる頃、天下無双、今で言う世界最強になることを目標と試合に明け暮れた武芸者の時代があった。
武士道の時代があった。
天下無双、その言葉に男達は酔った。
天下無双、その世界を夢見ていた。
簡単である、シンプルなのだ。
シンプルな世界、ただ一つ、真実の世界、現世のしがらみも、金も、地位も、名誉も、全ての欲が、ばかばかしくなる世界。
それは男だけの世界なのかもしれない、男だけ、男は女と違い消耗品だ。
無くなっていいのだ、亡くなって良いのだ。
女は次世代に子孫を残す大事な機能を持っている。
高名な禅僧が言う。
「男とは子供よ、女とは宝よ」
それで良いのだ。
だから男は強さに惹かれる。
強さに引かれ、強さに惹かれ、強さに弾かれる。
純粋な強さ、それに恋焦がれ、それを目指そうとし、己の心を噛む、己の姿を咬む、噛んでいないと男では無くなる。
だからあの試合は興奮するのだ。
あの、究極の試合、世界最強の日本刀同士の試合、本当の意味での真剣勝負。
2020年、世界最強の剣士は新影柳生流剣術指南「柳生清十郎」、恩歳70になったばかりか。
その世界最強の座、新影柳生流継承で清十郎と対したのが柳生強。
今、その畳の上で静かに横たわっている老人が元柳生強、改め早乙女強、改め「裏柳生・龍剣」と呼ばれ、恐れられた剣豪である。
だから俄かには二人の刑事が信じられないでいたのだ。
作品名:覇剣~裏柳生の太刀~ 作家名:如月ナツ