舞うが如く 第六章 1~3
官軍の総大将であった西郷隆盛は、戦いに勝ち、
庄内藩・鶴ケ岡城下に兵を進駐させる際に、
自軍の兵の刀を召し上げて、丸腰のままで入城をさせました。
薩摩の兵士達は、激しい戦闘の末に勝利をしたために、
いまだ興奮も覚めやらぬ状況のため、
城下で乱暴狼藉を働く可能性がありました。
それを未然に防ごうという意図です。
ところが普通であれば、
敗者側の刀を、当然取り上げるべきものなのに、
西郷は、庄内藩の武士達が誇りを失ってはいけないからと、
逆に、彼等には帯刀を許しました。
これには、負けた側の庄内藩の人達が驚きました。
この結果、本来であれば
敗者側には、勝者側に対する憎しみが残るはずが、
逆に、敵軍の総大将である西郷隆盛に対する尊敬の念が高まり、
ついには彼に私淑する人までが現れました。
特に庄内藩の若者の中には、西郷隆盛の教えを直接請いたいと
願う者が多くでるようになったといわれています。
戊辰戦争のあと、
西郷隆盛は新政府で陸軍大将参議という要職に就きます。
しかし、多くの犠牲の末に出来上がった新政府は、
西郷隆盛自身や多くの若者が情熱を燃やし奮闘した結果
得られたものとしては、大幅に、期待に反したものとなってしまいました。
失望した西郷隆盛は、
やがて征韓論で政府と対立したことを契機に、
野に下り、単身、鹿児島へ帰ることになるのです。
作品名:舞うが如く 第六章 1~3 作家名:落合順平