現代異聞・第一夜『覗き込む女』
拷問にも似た時間がどれだけ続いたのか──不意に、扉の向こうで何かが蠢いた。
息を呑む。
ひゅっ、と喉の奥で渇いた音が鳴った。
ゆっくりと、しかし確かな振動を引き連れて、
扉が二度、
(──助けてください)
ノックされる。
脊髄に氷を直接流し込まれたような悪寒。
背中越しに伝わる扉の揺れ。
お守りを握りしめた掌の感覚はとうの昔に失われていた。
月明かりすら差さない暗闇の中、
扉の向こうから形容しがたい不快な哄笑が響いて、
真っ黒な何かが頭上を覆い、
「みつけた」
作品名:現代異聞・第一夜『覗き込む女』 作家名:名寄椋司