「姐ご」 13~16
エクセルが従来の方針を転換して
勝ちが見込める有望な競走馬のみを地方や中央の厩舎に
所属させるようになりました。
それら以外は、すべて予備軍や次世代馬として競馬場には
未登録のまま、工藤の厩舎で調教を続けさせていました。
有望な馬のみを登録して、勝ち数を増やし
勝率をアップさせることがエクセルの狙いでした。
同時に、採算が見込めない馬の維持経費を削減するために、
残ったほとんどの馬は藤厩舎に置き続けました。
競走馬はスピードがすべてです。
調教によって有る程度の能力にまで達しない限り、
いくら走っても勝つことはできません。
実際の競走馬の能力は調教を通じて磨かれ、鍛えられていくのです。
1~2歳馬のころまでの走る能力は、あくまでも潜在能力であり
その馬の持つひとつの可能性にしかすぎません。
多くの競走馬たちは、その能力を発揮しないうちに終ります。
競走馬の世界で勝つことができるのは、ごく一握りの優駿のみで、
未勝利のまま、競争生命を終える馬たちのほうが
はるか圧倒的に多いのです。
「おかしいな・・・」
古い蹄鉄をひっくり返しながら、装蹄師がつぶやいています。
競走馬は、短い期間で蹄鉄を打ち変えますが 調教中に蹄鉄を消失することも
あるために、そのための予備として常に取り替えた古い蹄鉄も
常に手元に残しておきます。
そのひとつを手に取りながら、装蹄師が首をひねっています。
有望と言われている、2頭の優駿の蹄鉄の減り方が、
何時もばらつくのが気にかかるのです。
ここ最近になってから、 2頭ともに同じように前脚に
異常が現れ始めました。
馬はもともと、まっすぐには走ることができますが、
左右に曲がることはできません。
曲がるためには、掻き込むための前脚を、右と左にそれぞれ
切り替えさせる必要があります。
「手前を変える」といって、時計回りと反時計回りに曲がるためには、
切りかえるための脚の使い方を、繰り返し繰り返し、調教で教えこみます。
「どうした、鉄屋。真剣な顔をして」
瓦屋がめずらしく、装蹄師の仕事場に顔をだしました。
歩行も支障なく歩けるまでに回復し、日々練習場にも通い始めました。
作品名:「姐ご」 13~16 作家名:落合順平