「姐ご」 13~16
いっぽうの工藤厩舎でも、致命的な事件が勃発をしました。
ハイセイコーの血を継ぐ2頭の優駿が、
相次いで脚に致命的ダメージを発生させました。
もともと体力的にも優れ、
瞬発力と持久力を併せ持ったこの血統ゆえの宿命は、
自らの脚に負担を懸け過ぎるという傾向がありました。
期待を大きく担って走リ続けているうちに、ついに多大なダメージが生まれ
脚の故障の原因を蓄積してしまいました。
強すぎるがゆえの故障です・・・・
しかし、
脚を故障した競走馬に明日はありません。
走れないということは、商品価値の消失を意味すると
いうのが競争界の掟です。
それは将来を有望視された2頭の優駿が、若い命に
幕をおろすことを意味しました。
一口馬主の投資会社「エクセル」は、
IT会社の粉飾決算事件を受けて暴落した株のダメージの直撃を
もろに受けまてしまいました。
過大投資をし過ぎたために、ついに致命的な負債超過に陥りました。
投資会社のエクセルからは、若い社長の姿が消えて、
有望馬を失った工藤厩舎からは、
厩務員の正田が失踪してしまいました。
IT企業の大量の株券が、
まもなく上場廃止の手続きにはいろうとしていました。
売ろうにもまったく値段はつきません。
すでに紙くず同然となり、IT企業は立ち往生をしたまま、
取締役たちは刑事被告人になってしまいました。
時代を揺るがせた寵児たちが、
ついに犯罪者へと転落をしはじめました。
工藤厩舎には、たくさんの育成馬がのこされたままでした。
あれほどいた人々が、あっというまに潮が引くように消え始めてしまいます。
急ブレーキによる活動の停止には、負の連鎖が続きました。
工藤調教師本人もまた、この日の5日後に、
河原に愛車を乗り捨てたまま、その後の消息を絶ってしまいました。
後に残されたのは、生活の支えを失ったカミさんと3人の子供、
行き先を失った厩舎の100頭あまりの競走馬だけでした。
作品名:「姐ご」 13~16 作家名:落合順平