笑ミステリー 『女王様からのミッション』
「沖縄で、カーナビで知った住所、あれは確か、祇園桜見小路東入ルだった、ここから直ぐの所かな。ちょっと入口がどんな所か様子を見に行ってみるか」
高見沢はそう決心すると、後は早かった。八坂神社に向かって足早に歩き始め、縄手通りを北へと入っていく。その辺りはもう夜の街、実に賑わっている。
「華やかだなあ。こんなのを見ていると、どこが不景気なんだろうか」
高見沢はそんな感想をぶつぶつと漏らしながら、四、五分歩き東へと折れた。そこは祇園白川通り。まさに古都らしい風情が漂っている。
春は白川沿いの桜がパッと咲き、桜花爛漫で目もあやな。そして初夏は葉柳。風が濃い緑の枝を揺らす。
だが今は小雪舞い散る初冬。澄んだ空気の中で、お茶屋の灯りが白川の川面にキラキラと煌めく。
「おっおー、舞妓さんがいる、いる」
舞妓さん二人が連れだって、白川の柳の石畳をこっぽりこっぽりと歩いている。
「辰巳大明神にお参りにでも行くのかな。それにしても、舞妓はんて、昼見るとマッチロケだけど、さすが夜見ると……綺麗おすなあ」
高見沢はそんな巫山戯た独り言を吐きながら、舞妓さんに纏わり付いている観光客風の男たちの間をすり抜けて歩き進んだ。
そして、そこは祇園桜見小路。さすが夜の街。夜の蝶達が乱舞し、黄金虫(こがねむし)風の男たちで溢れている。高見沢はそんな夜の賑わいに飲まれてしまったのか、一気になにか自由で解放された気分となる。忘年会の疲れも忘れ、今はワクワクした心持ちで歩いている。
「邪馬台国への入口は、確か祇園桜見小路東入ルだったよなあ」
高見沢は冷え切った頭の中で、その記憶を確認しながら桜見小路を突っ切った。そしてすでにクラブ・LOVE付近まできている。辺りには多くのクラブやスナックのサインボードが掲げられている。高見沢はそれらを一つ一つ確認していった。大きなサインボードには、十軒くらいの店の名が縦横に並べられて表示されている。
「邪馬台国の入口は、どこかなあ?」
高見沢はまさかこんな所に邪馬台国の入口があるなんて、半分疑ってる。しかし、それでも見落としのないように注意を払いながら探していく。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊