笑ミステリー 『女王様からのミッション』
「ああ気持ちがいいわ。古いものはみんなみんな、心も身体も脱ぎ捨てたわ。これでやっと王子様に逢いに行けるわ」
クラマは脱皮をやり遂げた達成感に上気し、そして王子との再会に期待を膨らませている。
一方高見沢は「これぞ、新生・クラマ姫の誕生だ! ブリリアント(輝かしい)!」と叫び、大感激なのだ。
だが、そんな時に、クラマがユラユラユラと揺れながら崩れ落ちた。そして、その柔い裸体を野っ原に横たえてしまったのだ。
クラマ姫の乳白色の柔い肌が無防備に曝されている。剥き出しの皮膚は、少し突っつけば破れてしまいそう。高見沢は脱ぎ捨てられた抜け殻を抱えながら、オロオロとするだけ。
「そのままじゃ、肌が柔らか過ぎて、ちょっと危ないんじゃない。なあクラマさん、下着ぐらい着けたら?」
高見沢は心配でこう促してみた。
「いいのよ、このままで、肌を外気に曝してね、早く強くしたいの」
「虫に刺されるぞ」
高見沢はやはり気が気でならない。するとクラマは、高見沢に手を合わせ訴える。
「お願い、高見沢さん、私の代わりに……、先に虫に刺されて」
究極の愛を求めて王子に早く逢いたい。そしてすぐに連れ戻してきたい。そのためには、どこまででも高見沢を利用したい、またその尽力に甘えたい。
女の執念、それは岩をも通すということなのだろう。高見沢はそんなクラマの一途な気持ちが愛らしいと思った。
「了解、俺が先に虫に刺されるから、安心して休みなさい」
高見沢はそう答えた。そして、高見沢は一時間程度身を挺してクラマの身体を虫から守った。そのお陰なのだろうか、クラマの皮膚は順調に強く固まってきた。
そして今ここに、新生・クラマ姫が粛然(しゅくぜん)として誕生したのだ。
「じゃあ高見沢さん、私はそろそろ青い光の中へ。時空を越えて、クカンテーツ王子を捜すために旅立ちます。だからしばらく、ここで待っていて下さいね」
「ああ、気を付けてね。行ってらっしゃ〜い!」
高見沢は元気良く声を掛け、クラマのそばから離れた。
その後、裸のままのクラマは、なんのたじろぎもなく敷き詰められた青バラの絨毯の中心に凛として立った。そしてキラキラと煌めく青い光を、脱皮し立ての透き通った肌に一杯受け止める。その青さがどんどんとその皮膚の中へと吸い込まれて行く。そして、クラマ姫の一糸纏わぬ裸身が限りなく青く染まる。
それを反対に言えば、女の肉体が青バラの光の中へと、どんどんと溶け込んだと言うべきなのだろう。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊