笑ミステリー 『女王様からのミッション』
「優しく優しく、愛ある女体マッサージをするのだね。マッカセナサーイ!」
高見沢はそう軽やかに返し、背中からゆっくりと揉みほぐしに掛かる。クラマの息遣いが段々と荒くなる。脱皮しようと真剣にもがいているのだろう。
「おっおー、脱皮って、こんな大変な肉体労働だったのだ。クラマ、頑張れよ!」
高見沢はそうエールを送るのだ。そして、クラマの身体全体をふわりと抱擁しながら、一所懸命皮膚の揉みほぐしをする。
そんな愛ある女体マッサージで三十分ほどの時間が経過しただろうか。揉みほぐした皮膚が少しゴワゴワとなってきたような感じがする。多分、表面の古い皮膚と、その下に隠されている新しい皮膚との間に空気が侵入し始めているのだろう。
そんな時に、クラマが消え入るような声でせがむ。
「高見沢さん、背中に縦の割れ目を入れたいの。手の平を背骨の左右にピタッと貼り付けて、横方向に引っ張って裂いてくれない」
高見沢は「そんな残酷なことできないよ!」と断りかけたが、ここはクラマの要望通り背中に手の平を貼り付けた。そして、恐る恐る背中を割るように少し力を入れる。これが結構固い。
「男の子でしょ、もっと力を入れて、割り裂いてちょうだい!」
クラマがきつい調子で命令してくる。高見沢はこれに応えて、「じゃあ行くぞー、セイノーで!」と思い切り裂いた。
まさにそれと同時進行的に。この世のすべてが破断されたような響きが。
「ビリッ!」
クラマの背中に縦の裂け目が入ったのだ。
「クラマ姫は、これで新しい扉を開けたんだよなあ」
高見沢はその裂け目を眺めながら、魂の震えを覚えるのだった。
「高見沢さん、もう後はタランチュラ星雲の重い石のように、動かずにじっとしていてね」
クラマからそんな注文が飛ぶ。そしてクラマは、高見沢に身体のあらゆる箇所を押し付けたり擦り付けたりする。明らかにこの行為は、背中の縦割れの裂け目をもっと広げようとするためのもの。
そして、身体をくの字に折り曲げ、力を込めて背中を突っ張らせる。これは縦に入った裂け目から、胴体を抜き出させようとする力仕事。クラマはまさに悪戦苦闘。
高見沢はもっと手伝ってやりたい。しかし、新しい皮膚に傷でも付けたら大変なこと。頑張れよとしか言いようがない。こうして高見沢は心も身体も石っころになり切ってしまったのだ。
そんな状態で、クラマの奮闘が三十分は続いて行っただろうか。やっとのことで、胴体/顔/頭の上体半分を古い皮から抜き出させた。そして次は左手を抜き、右手を抜き出そうとしている。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊