笑ミステリー 『女王様からのミッション』
「これって、夢の中で見たような気がするわ。私段々と思い出してきたわよ。私ね、これに乗って、地球にやって来たのよ」
クラマは徐々に遠い記憶が蘇ってきているのか、一つ一つのメモリーを確かなものにして行ってるようだ。
「さっ、中へ入りましょ!」
クラマはいきなりそう言い、さっさと歩き出した。そして円盤に近付くと、突然ドアーがシュワーと軽快な音とともに開いた。その上に、タラップが自動的に下りてくる。
それはまるでずっとクラマ姫を待っていたかのように。そして、ここでも高見沢は提灯持ちのお役目を。クラマの足下を照らし、足を踏み外さないように導き、円盤の中へと入った。
二人がそこで見たものは……、それはまったくもって意外な光景。
要は何もない。そこにはシンプルな広い空間があるだけだった。
SF映画などに出てくるコックピットのようなものは何もない。その上に、コンピューターや機械の欠けらさえもない。イメージにある宇宙飛行物体・UFOの船内とはまったく違っていたのだ。
「なんだよこれ、UFOの中って何もない。単なる原っぱだけなんだ」
高見沢は思わず声を上げてしまった。そうなのだ、UFOの中は広い野原が広がっていただけなのだ。
しかし、よくよく眺めてみると、クローバーのようなものがフロアー一面に生えている。そして、その野原を取り囲む周辺には、なんと青バラが溢れるばかりに神秘的に咲き乱れているではないか。
「ナヌ? これがUFOの中? これって青バラ園?」
高見沢はその意外さに度肝を抜かれてしまった。横に寄り添っているクラマは「只今帰ってきました」という安堵な顔をして、実に幸せそう。
「多分ここが、鞍馬山台国の生命の原点だと思います。私、今ものすごく安らいだ気持ちになっているのですよ」
クラマはまるで故郷の大地に抱かれた乙女子(おとめご)の様。しかしその後、思いがけないことが起こった。
穏やかな表情をしていたクラマがポロポロと涙を落とし始めたのだ。
クラマの緑の瞳から零れる大粒の涙。それらが青バラの青さを吸収して、儚く落ちて行く。これは尋常なことではない。
「えっ、クラマさん、突然にどうしたんだよ? 何か悲しいことでもあるの?」
高見沢はできるだけ優しく聞いてみた。するとクラマはその涙を拭い、「高見沢さん、私思い出したの……、だけど、思い出せないの」と悲しそうに言う。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊