笑ミステリー 『女王様からのミッション』
邪馬台国情報部のマキコ・マネージャーによれば、この件についてもう少し詳しい。一万年前にアンドロメダ銀河から鞍馬山に降臨したのが、焔の民。すなわちクラマ姫の民族で、その仲間たちなのだ。そして鞍馬山台国を開き、何千年もの間、この鞍馬の地で平和に生き続けてきた。
しかし本能寺の変の頃、乱世の日本に見切りを付けたのだろうか、鞍馬山台国の人たちは新天地を求め、満州の大地へとほとんどの人たちが移動して行った。
その後、不幸にも地球型ウイルスに感染し、大陸からもこの日本からも鞍馬山台国の人たちはほぼ消えてしまったと言われている。
邪馬台国の卑弥呼女王はこの民族の儚さを慮(おもんばか)り、日本に僅かに残ったとされるこの同盟国の人たちを代々探し続けてきた。そして今回ITを屈指し、さらに高見沢の初ナンパによって、純血種のプリンセス・クラマを東京吉祥寺から京都へと連れ戻して来ることができたのだ。
高見沢は翌朝早くクラマ姫をホテルでピック・アップした。そして二人は、高見沢の愛車で鞍馬山へと向かった。
当然、今回『時代選択』できる新型ナビは装備されていない。
従って鞍馬山台国への入口の情報はまったくない。しかし、今クラマ姫のナチュラルな感性は研ぎ澄まされている。
そのDNAに刻まれた回帰本能。光/風/音/匂い等々、帰巣欲求が励起状態となり、それらからすべてのメッセージを感じ取っている。さらに、より本能を刺激する地磁気までも感じ入ろうとしているのだ。
二人は結界の仁王門を越え、浄域へと足を踏み入れた。九十九折り坂を本殿・金堂へと登り詰め、そしてさらに進み、奥の院の魔王殿へと到達した。
二人はそこで少し身体を休めた。そして再び、吹きくる春風に誘導され、山の奥へ奥へと踏み入って行くのだった。
クラマ姫は、どこからとなく聞こえてくる呼び声の方向を高見沢に指し示す。そして高見沢は先頭に立って、道なき道を開き、その方向へとクラマを導く。
二人はこんなことを何回か繰り返した。一時間ほど歩き続けただろうか。とうとう奥深い谷へと行き着いてしまったのだ。
そこには大きな杉木立がある。そしてその斜面に、もたれ合った二つの大きな岩がある。クラマはその岩に向かって、何かに取り憑かれたように黙々と歩き進む。そして自信あり気に、「入口は、ここです!」と高見沢に告げた。
「えっえー、こんな所に、鞍馬山台国の入口があるの?」
高見沢はハトが豆鉄砲を食ったような顔をしている。しかし、よくよく見ると、二つの岩と岩の間に小さなすき間がある。
いろんな世界への入口はいつも思わぬところにあるものだ。そして想像できないほど狭いのが世の常なのかも知れない。
「なるほどなあ、鞍馬山台国への入口って、外敵に気付かれないためなのか、こんなに窮屈なものにしてあったのだね」
高見沢がそう感心していると、クラマが高見沢の後ろに回って脅えている。それは無理からぬこと。クラマ姫の究極の愛を探しに、なんとかここまでやって来た。そして今、目の前に鞍馬山台国への入口がある。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊