笑ミステリー 『女王様からのミッション』
卑弥呼女王は何事にも動揺せず、音も立てずにどんどんと進みきて、クラマに歩み寄った。そして悠然とクラマの前へと一歩踏み出す。
卑弥呼女王の瞳は完璧なエメラルド・グリーン。またクラマの瞳もミント・グリーンの緑目。こんな二人が静かに向き合ったのだ。
それは地球上での出来事とはとても思えない。まことに幻想的な光景だ。今、高見沢の目の前にそれがある。
じっと二人は見つめ合っている。そして、しばらくの時が流れて……悠々と。女王とクラマは不思議な振る舞いをし始めるのだ。
卑弥呼女王は、まず最初に、クラマが高見沢にしたようにパーム・スコープを作った。そして、それでクラマを覗く。クラマの方も、少しの時間の遅れはあったが、同様に覗き始める。グリーン・アイズを持った二人がパーム・スコープで互いに覗き合っているのだ。
しばらくして、卑弥呼女王はパーム・スコープをほどき、今度は左手の手の平を前へ突き出した。クラマもそれにつられてなのだろうか、同じように左手の手の平を前へと突き出させた。そして互いに手の平同志を重ねるように接近させる。しかし、決して接触はさせない。一センチほどの微妙な間隙が空いているようだ。
二人ともまったくの無言。だが、じっと見つめ合っている。
高見沢はこのミステリアスな光景を見ていて、そこに非日常的な空気が流れ、場のエントロピーが上昇して行くのを感じ取った。そして静寂は流れ行き、その後から思考を越えた無秩序の世界に埋没して行くような感覚さえも覚えるのだった。
高見沢はマキコ・マネージャーに訊いてみる。
「マキちゃん、二人は一体何してるの? 手の平の間で、光線でも飛ばし合っているのかな?」
マキコ・マネージャーがぎゅっと高見沢を睨み付ける。
「シーッ! 大声出さないで、二人は地球人ではないの、これが太陽系外種の同志たちの会話なのよ。まさにコミュニケーションよ」
「えっ、今何て言った? 太陽系外種って? そうだったのか」
高見沢はただただ驚いた。
確かに、卑弥呼女王の祖先はアンドロメダ銀河から地球に移住してきたと、前回の訪問時に聞いている。しかし、クラマまで太陽系外種とは気付かなかった。
そんな時に、卑弥呼女王の澄んだ声が空間を貫く。
「ようこそ、クラマ姫、この地下女王国・邪馬台国においで下さいました」
クラマはもう一つ解せない表情で、卑弥呼女王の言葉を聞いている。
「えっ、クラマ姫って? 私、お姫様?」
そんな疑問を口にする。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊