笑ミステリー 『女王様からのミッション』
まさにそんな時、高見沢は目にしたのだ。それらは明らかに……グリーンだと。
そう、高見沢はコンタクト・レンズを外した女性の左右の瞳ともが、グリーン・アイズであることを現認したのだ。
「おっおー、直感は当たっていたゼ。アナタこそ、探し求めていたグリーン・アイズだ!」
若干の不整脈を伴いながら胸が高鳴る。それは卑弥呼女王ほどの深いエメラルド・グリーンではない。少し青っぽくて、明るい色調のグリーン・アイズ。色名で言えばミント・グリーン。
「やっと見つけたぞ!」
高見沢は大喜びの大はしゃぎ。
今度は女性の方から、「ここでの立ち話しでは、周りがやかまし過ぎますから、近くのコーヒーショップへでも行きませんか」と予期せぬお誘いがあった。女性がヤケに積極的になり出したのだ。
高見沢の突撃的ナンパ。まずは蹴飛ばされてしまうだろうと覚悟を決めていた。しかし、高見沢にとって、これは実に意外な展開となりつつある。そして疲れ切っているサラリーマンの割には反応が速い。
「ぜひ行きましょう」
高見沢はこのチャンスを逃すまいと即答した。そして、学生時代のガールフレンドとの再会のように、年甲斐もなくドキドキと胸を高鳴らせるのだった。
今、グリーン・アイズの女性とコーヒーショップの片隅のテーブルで向き合って座っている。そしてブレンド・コーヒーの柔らかな香りが、初対面の二人を和ましてくれている。
高見沢はまずは名刺を差し出し、自己紹介をした。そして、なぜこのような機会が頂けたのか不思議で、「どうして話しを聞いても良いと思われたのですか?」とズバリ尋ねた。すると女性はそれに軽く頷き、徐々に自分のことを話し出す。
「はい、私はストック・アナリストをしてますクラマと申します。普段はコンタクト・レンズで目の色を隠していますわ。他人様には、このグリーンの目を見せたことがないのですよ」
高見沢は何か深い事情があるなと感じながら、「ああ、そうですか」と軽く返した。
「そんな私が、どうしてここへ来て、緑の目のままで、高見沢さんのお話しを聞かせてもらおうという気持ちになったかですが、それはね、先ほど指を組んでパーム・スコープを作ってたでしょ。失礼ながら、それで高見沢さんを覗かせてもらったのですよ」
それは実に謎めいた話しだ。高見沢は「へえ、そうなんですか」としか相槌を打てない。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊