笑ミステリー 『女王様からのミッション』
「あのう、私、高見沢一郎と申します。京都からミッション遂行のためにやって来ました。ちょっと見て頂きたいものがあります、よろしいでしょうか?」
高見沢は丁寧に話し掛けた。しかし、中年オヤジからの突然の呼び止めで、女性からは警戒心がひしひしと伝わってくる。高見沢はこれはまずいと思い、素早く鞄からケースを取り出した。
「青バラを貴女にプレゼントしたいのです。お願いです、ちょっと見て頂けませんか」
高見沢は必死で訴え、ケースを開き、女性に青バラを見せた。
突然目の前に差し出された深いコバルト・ブルー色の青バラ。女性はそれを見て目をパチクリとさせた。
「えっ、このバラ、本当に青くって、綺麗! どうして、これを私に?」
「実は、簡単には語り尽くせない物語がありまして」
高見沢はできるだけ紳士的な振る舞いをもって、そう伝えた。女性は突然の話しで、少し戸惑っている様子だ。
「決して私は悪人ではありません。この青バラを、なぜ貴女にプレゼントさせて頂きたいのか、その理由について、もしお時間があればぜひ聞いて欲しいのです」
高見沢はもう必死のパッチでお願いをした。女性はこんな高見沢の精魂込めた訴えに、なにか訳ありと感じ取ったのか、少し考えている。そして「ちょっと待って下さいね」と言い、くるっと後を向いてしまったのだ。
高見沢は若い時にこのような女性の態度をよく体験した。今までの学習的理解では、それは拒否。要は「あっちへ行って!」という合図なのだ。
しかし、今回はそんな冷たさは感じられない。
高見沢がそれとなく覗ってみると、女性は自分の指を目の辺りに持って行っているようだ。どうも後ろを向いて、コンタクト・レンズを外している。
それはそれほどの時間は掛からなかった。そして高見沢の方に向き直り、今度は何と奇妙なことに、女性は左右の手の指を組み合わせて、両目の前で一つの輪っぱを作り、高見沢を覗き出したのだ。
それはまるで望遠鏡。高見沢の姿全体を、それで覗き込んで見ているようだ。
「おかしなことをする女性だなあ」
高見沢がそう不思議がっていると、手で作った望遠鏡をほどき、「お話しを聞かせてもらいますわ」ときっぱりとした口調で返事が返ってきた。
しかし高見沢は「この奇々怪々な動作は、一体何なんだろうなあ。まるで正直者の俺を検査してるみたいだよなあ」と訝(いぶか)った。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊