笑ミステリー 『女王様からのミッション』
時間は刻々と流れて行く。このまま放っておけば、虚脱したままですべてが流れ去ってしまいそう。
「これはちょっとまずいぞ、ミッション遂行だ!」
高見沢は今一度自分を奮い立たせた。そして、久々に目を精悍(せいかん)で動物的なものに変じ、通り過ぎて行く女性を追い掛け始めた。
だが随分といろいろな類(たぐ)いの女性がいるものだ。高見沢はあの女性この女性と、目で目を追い掛けた。しかし、どの女性を見ても緑の瞳を持つような人はいない。みんなブラック・アイズなのだ。
「どうなってるのかなあ? 情報はガセネタだったのか」
高見沢は少し凝いを持ち始めた。
そんな時だった。ショルダー・バックを軽く肩に掛け、ジーンズをはいた清楚な女性が一人、こちらに向かって歩いてくる。
季節は三月。そのため少し肌寒いのか、女性は厚手の白のカーデガンを羽織っている。
年の頃は二十五歳頃。スリムで、長い髪を揺らしながら一直線に歩いてくる。
派手さはないが、そこはかとなく優美な雰囲気があり、実に美しい人だ。しかし、どこかで見たことがあるような人でもある。
「あっそうか、雰囲気的には、卑弥呼女王みたいなところがあるよなあ」
高見沢は一人感じ入る。そして「これは、ひょっとするとひょっとするぞ」とその瞳をしつこく追う。
残念ながらグリーン・アイズではない。だがよく観察してみると、黒い瞳でもないのだ。どちらかと言えば、グレーっぽい瞳の持ち主のようだ。
「残念無念、緑じゃないのか」
しかし、その時高見沢に動物的な勘が働いた。いや、それとも長年培ってきたしつこさのある感性が条件反射したのか、ハタと閃いた。
「ちょっと待てよ、ひょっとしたらコンタクト・レンズで、緑目を隠しているのかも知れないぞ。それでグレーっぽい瞳になっているのかも知れないなあ」
高見沢はそう直感した。それと同時に、まさにやってみてから考えよう。足はもう前に大きく踏出していたのだ。
高見沢は足早に去って行くその女性を追い掛け、一か八かで声を掛ける。
「すいません、ちょっとお待ち下さい」
「はあっ?」
女性は高見沢の方を振り返り、不思議そうに声を上げた。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊