笑ミステリー 『女王様からのミッション』
「ハアハアハア」
高見沢は息を切らして、コンコースを駆け足で突進している。そんな慌ただしい時に、後方から声が発せられてきた。
「高見沢一郎君、ちょっと待ちなさいよ!」
「なんだよ! こんなお取り込み中の時に、偉そうに、俺を呼んで」
高見沢は突然の遠慮のない呼び止めに、ムッとなりながら声のする方を振り返った。するとそこには……、まさかのまさか。マキコ・マネージャーが突っ立っていたのだ。
いかにも弾力がありそうなバスト。それを天に向けて、目一杯に膨らませている。そしてウェストはググッとくびれている。さらにヒップは形良く、上方へと張り出させている。
そんなマキコ・マネージャーが黒のビジネススーツで身を固め、ビシッとポーズを決め込んで、凛としてそこに立っていたのだ。
「オッオー、セクシーだ!」
高見沢は一瞬そう思った。イメージとしては、洋画シーンに登場する未来型オフィス・セクレタリー。そんなマキコ・マネージャーから、さらにお言葉が。
「メッチャ慌てているようだけど、どうしたのよ?」
たとえマキコ・マネージャーがこんなにもビューちフル・レディーであっても、高見沢はこれにはカチンときた。
「だいたいだよ、アンタが東京の吉祥寺に自腹を切ってすぐに行けって、メールで指示を飛ばしてきたんだぜ。もう賽(さい)は投げられたんだよ、だから俺、今メッチャムッチャ急いでいるんだよ。とにかく邪魔せずに、次の[のぞみ]に乗せてくれよ!」
「ちょっと高見沢さん、こっちへ来て私の話しを聞きなさいよ!」
マキコ・マネージャーは高見沢の意外な反発に、まるで上司のような顔付きとなり、恐い口調で命令する。そして有無を言わさず、高見沢のスーツの袖を掴んで、近くのコーヒーショップへと引っ張って行くのだ。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊