笑ミステリー 『女王様からのミッション』
高見沢はマキコ・マネージャーの熱意にほだされて、「具体的には、それって、どんなメリットがあるの?」と思わず尋ねてしまう。
「日経平均株価なんか、三ヶ月先までシックス・シグマの確率で読めるのですよ。これで、世の中で波乱が起こらない程度に大儲けしてますわ、オホホホホ」
高見沢は、こんなマキコ・マネージャーの演説に圧倒されながら、「へえ、そうなのか、量子コンピューターって、今後のSバンクの株値も正確に読めるのだね。ウハウハ、ねえお願いしま〜す、それ是非とも教えて下さ〜い!」と、ここはもう必死で懇願する。
「これからの高見沢様の心掛け次第よ。もしお利口さんなら、教えちゃおーかな」
マキコ・マネージャーが意味ありげに焦らし、後は一転、さらっと仰るのだ。
「二つ目のお願いですが、高見沢様の細胞を採取させて頂きたいのです」
「ええっ」
高見沢はあまりにも唐突な話しで驚いた。だが、先の話しで何か良いことが怒りそうで、「ああ、いいよ」とハズミで返してしまう。それから少し気が落ち着くのを待って聞いてみる。
「それで、一体何をするの?」
「DNA鑑定させて頂きたいと思います。特にRNAまで読み取り、ゲノム情報を解読します。二十番染色体の十万番台のA/T/G/C、及びA/T/G/U配列に着目したいと思います」
高見沢は手にしている卑弥呼大吟醸を一気に飲み干し、「ふうん、それで何がわかるの?」と。
「高見沢様が邪馬台国の民族にどれくらい近親なのか、調べておきたいと思います」
マキコ・マネージャーはこう言い切って、後は楽しそうにニッコリと笑うのだ。
「そんなん、どれくらい邪馬台国の人たちに近親なのかを知ったとしても、何か良いことあるの?」
高見沢にはどこにそのメリットがあるのか見えてこない。
「それはね、高見沢様がどれくらい摩訶不思議で、非日常的な私たちの世界に入ってこれるのか、その能力をチェックさせてもらうっていうことなのよ」
「ほー、摩訶不思議で非日常的な世界にね」
高見沢はもう訳が分からない。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊