笑ミステリー 『女王様からのミッション』
「それでは御説明致します、高見沢様は邪馬台国によって選ばれた人なのです。だから、まずは誇りを持ちなさい」
高見沢は負けてられない。
「ほう、誇りね、そんなものすぐ持てるよ、はい、持ちました。それで?」
それに応えて、マキコ・マネージャーが「お金も不要です」と畳み掛ける。
「ふんふん、結構なお話しじゃん」と、高見沢は何も考えずに軽く相づちを打つ。するとマキコ・マネージャーは、今度はキリッと高見沢を睨み付け、重々しく宣(のたま)われるのだ。
「高見沢様に、四つのお願いをさせてもらいたいのです」
「四つのお願い? なにか大昔、どっかで聴いた歌のセリフだよなあ」
高見沢はそう答え、早速「四つのお願い聞いて……♪♪」と、古典的メロディーを口ずさむのだ。これにマキコ・マネージャーは間髪入れず、ズバリと仰った。
「随分、美人を前にして緊張されてるのですね」
二人の間にしばらくの沈黙が。高見沢は正直「緊張なんて、とんでもない」と反発したかった。しかし、深層心理を図星で言い当てられてしまっている。これはなかなかのお姉さんだと思い直し、素直に「はい」と態度を改めた。
そんな後に、今度は淡いベージュの服を着た女性が現れた。そしてグラスに入った飲み物を高見沢に渡してくれた。
「ありがとう、これ、ワインですか?」
高見沢はマキコ・マネージャーに単純に訊いた。
「いいえ、赤米の大吟醸ですよ。邪馬台国では幻の卑弥呼大吟醸と呼んでます。さあさあ一献盃を空けられよ」
マキコ・マネージャーからこうお薦めがあった。
「へえー赤米ね、お米の原種じゃないの、確か東南アジアが原産だよなあ。しかし、色はワインレッドか」
「さすが高見沢様、よく御存知ですね。邪馬台国では、稲が日本に渡って来る前から、この原種を手に入れ守り続けてきていますのよ」
高見沢はマキコ・マネージャーからのこんな講釈を聞きながら、一口口にしてみる。口の中にふわりと甘い香りが漂う。
「ほー、美味しいね。香りも良く、まろやかで……。ところで、これ、どこで栽培しているのですか?」
高見沢は感心しながらふと疑問に思ったことを尋ねた。それを受けて、マキコ・マネージャーからはたった一言の返事。「バイオです」と。
「なるほどね、バイオか」
あまりにも歯切れの良い返事が返ってきたためか、高見沢は思わず頷いてしまう。マキコ・マネージャーは、そんな高見沢に真正面に向き合って、「それでは卑弥呼大吟醸で、お気持ちをリラックスして頂きましたから、一つ目の簡単なお願いをさせてもらいます。よろしいですか?」と問うてきた。
高見沢は卑弥呼大吟醸ですでに気分上々。そのせいか、「はい」と簡単に答えてしまった。
作品名:笑ミステリー 『女王様からのミッション』 作家名:鮎風 遊