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僕の村は釣り日和5~竜山湖の事実

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 帰りは父の提案で、竜山湖の周囲をドライブしていくことになった。
 しばらくは原生林の中のよく整備された道路を走る。
 すると、急に視界が開け、民家が現れた。その集落の中央に一本の川が流れている。父はその川に架かる橋のたもとで車を停めた。
「これが竜川。竜山湖にそそぐ川だよ。ワカサギはこの川に遡って産卵するんだ」
 東海林君も僕も車から降り、川面を眺める。透明に近い水がさらさらと流れていた。
「何か、飲めそうな水だね」
「果たしてそうかな?」
 父が笑ってそう言った時、ジャバジャバという音が急に聞こえた。それは竜川の護岸からポッカリ開いた排水口から流れ出る汚水だったのだ。
「見た目にはわからないだろうけど、この辺の集落にはまだ下水道が完備されていないんだ。だから生活排水はすべて竜川、そして竜山湖へ垂れ流しさ」
 父が腕組みをしながら言った。そして集落の向こうにある空き地を指さす。
「あそこは今、造成中でね。これから家がたくさん建つんだ。もちろん下水道は完備されていない。ますます川は汚れるだろうね」
「これじゃあ、ワカサギも減るな」
 東海林君が排水溝と川面を交互に眺めながらつぶやいた。
「そういうことだ。今は綺麗に見えるこの川も湖も、確実に汚くなっているんだよ。ところで、次のところへ行こう」
「次のところって?」
「最高のロケーションさ」
 東海林君も僕も父に促されて車に乗った。車はすぐさま走りだした。心なしか、やや荒っぽい運転のような気がする。
 車は湖の周りを半周ほどすると、コンクリートで固められた護岸の駐車場で停まった。道路の向かい側には大きなみやげ物屋がある。いかにも観光地といった感じだ。
 駐車場ではアイスクリームを食べている親子連れや、湖をバックに記念写真を撮っているカップルなどでごったがえしている。みやげ物屋からは派手な宣伝のアナウンスの声が響いており、やかましいことこの上ない。
 父は湖面を覗き込んだ。さすがに、ここで釣りをしている人は一人もいない。
「ここは昔、葦の原だったんだ。それをコンクリートで固めてみやげ物屋の駐車場にしてしまったんだよ」
 父親がやるせないように言った。
「確か、葦は小魚の隠れ家になったり、産卵場所になったりするんですよね」
 東海林君が僕の父親に確かめるように言った。