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いとこんにゃく
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誰が為にケモノ泣く。Episode01『ある少年の告白』

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 閃光は狙ったように化け物に伸び、そのままぶつかるかと思われたが、化け物は接触寸前でそのしなやかな体を反らし、直撃を回避した。しかし、閃光はまるで生きているかのように急旋回すると、蛇のような動きで化け物の足に絡みついた。
 化け物は唸り声を上げて藻掻くが、絡みついた閃光は化け物の身体を容赦なく締め上げ自由を奪った。やがて、化け物は力尽きたようにその場に倒れ込んだ。
「あぁ…」
 ようやく殺気の呪縛から解放された梶は糸が切れたように地面に座り込んだ。全身が汗でべっとりと濡れていた。
「助かった?」
「――運がよかったわね。アタシに感謝すること」
 声に導かれるように後ろを振り返るとそこには、背の高い黒のライダーススーツを身に纏った女が立っていた。
 驚いて女を見上げる梶に構わず、女は肩にかかった髪をさっと後ろに払うと、すらりとした脚を優雅に動かしながら、梶の横を通り過ぎていった。
「さぁ、これでもうオイタはできないわよ」
 女は平然とした様子で化け物に近づくと、「観念なさい」と口端をつり上げた。
 いつの間にか、化け物の体には青白く発光する鎖が巻き付き、身動きがとれないように拘束されていた。
 梶は化け物と女を交互に見つめながら、女に向かって問いかけた。
「…これは、なに?」
「アタシたちは、〈ケモノ〉と呼んでいるわ」
「ケモノ?」
「アナタには関係のないモノよ」
 女は梶の問いを強制的に退けると、今度は化け物の背後に倒れている作業着姿の男性に近づき、屈み込んだ。男性の呻き声はすでに消え、微動だにしない。
「死んでいる?」
「生きてはいるけれど…しばらく意識は戻らないでしょうね」
 女はそう言って、白目を剥きだしにする男性の瞼を閉じてやった。
「さっきの化け物の仕業ってこと?」
「ノーコメント」
 女は、小さくため息をついて梶を振り向いた。
「アナタのおかげでアタシの仕事は思ったよりスムーズに済んだけれど…フゥ。目撃者がいるってのはホント厄介ね。特にあなたみたいに好奇心が強いタイプは、ね」
「それが生き甲斐みたいなものです」
 梶はうんざりとする女に向かって、ニコリと笑ってみせた。先ほどまでの恐怖は微塵も感じさせず、その瞳は好奇を前にして生き生きとすらしていた。
「あの化け物は一体、――何ですか?」


  □■□■


 翌日。
「いーちーや。どーした?今日は元気ねぇじゃん」
「うん?…あぁ」
 三時間目と四時間目を挟む休憩時間。一弥が机に頬杖をついてぼんやり考え事をしていると、葛城が一弥の前の席に移動してきてどかりと椅子に腰を下ろした。心配そうに一弥の顔を覗き込む。
「んん、悩みか?恋の悩みだったらオレがいくらかアドバイスできるぞ」
 一弥を気遣って、気分を紛らわそうと冗談を言う葛城に一弥は笑いかけつつ、「ハズレ」とパタパタ手を振る。
「大したことじゃない。心配しないでくれ」
「ふぅん…。ま、あまり一人で考え込むなよ。愚痴くらいならオレも聴いてあげられるからよ」
「ありがたいこって」
 葛城を真剣に心配させてしまうほど、自分は深刻な顔をしていたらしい。これ以上、余計な心配をかけさせてはいけないと一弥は気持ちを入れ替えるために、顔を洗いに教室を出た。トイレまで行って帰ってくる時間はまだある。
 蛇口をひねり、冷水を顔にぶっかけた。まとわりつく不安を少しでも拭い去りたかった。
「……ふぅ」
 気休め程度の効果だが、それでも気持ちがいくらか落ち着く。鏡に映る自分に気合を入れるために手で頬を叩いた。
 教室に戻ると、もうすぐ四時間目のチャイムが鳴る時間だというのに、教室から梶が出てきた。
「あ、八クン」
 梶は一弥を見て立ち止まると、同じく立ち止まった一弥にそっと近づき、突然小声で耳打ちをしてきた。
「ね、昼休み屋上に来てくれないかな」
「えッ…?」
 心臓がドキリと音を立てた。思いも寄らぬ呼び出しに一弥の頭の中が荒れ狂う。先ほどまでの不安が、気合がぼろぼろと崩れていく音がした。
「どう?」
「べ、別に構わない…けど」
 自分の声が上擦っていることにも気づかず狼狽える一弥を、梶は面白そうに見つめて、「よかった」と微笑んだ。
「――大切な話があるんだ」


 そして昼休み。
 一弥は昼食を早々に済ませると、期待と不安を胸に教室を出た。いつも一緒に食べているメンバーには行動を怪しまれてしまったが、そこは強引に吹っ切ることでなんとかクリアー。だが、念には念を入れて背後の警戒も怠らなかった。
 立ち入り禁止の札がぶら下がる鉄柵を乗り越え、屋上につながる階段を上がる。半開きのドアの隙間から真昼の強い陽射しが差し込み、薄暗い階段はほんのりと暖かくなっていた。
「待ってたよ。八クン」
 一弥が屋上に足を踏み入れるとドアの正面、手摺りに背中を預けて待っていた梶が、薄く微笑んだ。
 何かを企んでいるかのような含んだ笑みに、一弥の心がざわりと揺らめいた。期待というより、不安を予感させる意味深な笑みに思えた。
「話って、なんだ?」
 眉をひそめる一弥に梶は右手の人差し指をぴん、と突き立てた。
「その前に一つ」
「一つ?」
 首を傾げる一弥。梶は、一弥の表情の変化を一瞬でも逃さんと目を鋭く光らせた。
「――そう。昨日のメールは読んでくれた?」
「メール…?」

『箕雲桐生を覚えているか?』

「……あれ、梶が送ったのか……?」
 一弥の問いには剣呑な響きが込められていた。梶は何も言わずに頷く。一弥がほんの一瞬、目を逸らしたことを梶は見逃さなかった。
「……誰から、俺のメールアドレスを聞いた?いや、そんなことはどうでもいいんだ。あのメールは、なんのつもりだよ?」
 言葉に警戒心を滲ませながら、一弥は梶の真意を探ろうと神経を尖らせた。
「キミ、桐生と知り合いだったでしょう。だから、ボクの知らない桐生のことを教えてほしいと思って」
 淡々と理由を述べる梶に、一弥はしばし頭の中が混乱した。
 梶の言う通り、一弥と箕雲桐生は中学時代のクラスメイトだった。親しくしていたのも事実だ。しかし、緋武呂を離れていた梶が、なぜそれを知っているのか?梶と桐生はどんな関係なのか?
「…調べたのか?俺のこと」
「まぁね。プライバシーの侵害にあたるかなとか思ったんだけどね。桐生のことを探るためには必要な情報だったんだ」
「……」
 息をのむ一弥。
「…桐生の何が、知りたいんだ?」
 できればこの先の話は一切聞きたくなかったが、梶がどれほど自分と桐生のことを知っているのか、一弥は知る必要があった。
「桐生が半年前に死んだこと、知っている?」
 梶の言葉は、一弥の予想を裏切らなかった。
 あぁ。やっぱり、そのことなのか。
 胸が締め付けられるような痛み。
「桐生は半年前、緋武呂で死んだ。でも、おかしなことに死因が分かってないんだよ。ボクは、桐生の死を明らかにしたいの。だから、桐生と交流があった八クンなら、なにか知っていないかな、って」
「…分からないな。俺だって、アイツの死にはびっくりした」
 こいつはどこまで、知っている?
「ふぅん…。ねぇ、八クンは桐生が自殺したって思う?」
「えっ…?」
「それとも他殺?どっちだと思う?」
「………どうかな」