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マーカー戦隊 サンカラーズ

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【第三話 透明色のペンシル】


 満面の笑みで見せられたDVDケースの束に、良介は顔を思い切り引きつらせた。
「昨日分で?ハチキレ・ボンレッサー?終わっちゃっただろ? だから今日からは?高速回転トライセコー?借りてきたんだ」
「……へぇ……」
「宿敵バギーとの決戦が最高なんだって!」
 そう言った紅太の方は、テンションだだ下がりな良介の態度に構わず、いそいそとDVDをデッキに差し込む。
「……最高って、誰に聞いたんだよ?」
「みつる君」
「ミツル君?」
〈お隣の幼稚園児だ〉
「幼稚園児……っ!!」
 幼稚園児と同じレベルで意見を交わしていたらしい友人の笑顔に一瞬めまいがしたのは、けして良介の心が狭いせいではないだろう。そう信じたい。
 額に血管を浮かび上がらせた良介は、上機嫌でリモコンを操作している紅太の頬を摘むとぐいぐい引っ張った。
「お前はまた! またお前はぁあ!!」
「いひゃい! いひゃいっひぇえええ!!」
 涙目で訴える紅太に対し、苛立ちがおさまらない良介は制裁の手を緩めない。
カーペットの上でバタバタと暴れ続ける男子二人の一方で、ソレーユはいつの間に引っ込んでしまったらしく、何の音沙汰もなかった。良介の居候からは最初から何のコメントもない。
 ソレーユとルーナが、それぞれ紅太と良介の体内にとりついてから、数日。
 特撮ヒーローよろしく変身し謎の怪物を倒して以来、紅太は特撮作品にハマってしまったようで、こうして頻繁にDVD鑑賞会が開かれている。
「痛い! 痛いって、マジで!!」
「これだけやってもまだ懲りねぇだろうがお前は! オラ、逃げんじゃねえ!!」
 逃げる紅太に追う良介。
「あれ? 騒がしいと思ったら」
「あァ!?」
「おお、へぇひゃん。ほはへひー」
 そこへ不意にドアが開いたかと思うと、紅太の姉が部屋を覗き込んで笑っていた。
「あっ! こ、こんばんは。お邪魔してます」
「久しぶりね、良介くん。また大きくなって」
「いえ、そんな……」
 顔馴染みとはいえ、友人の家で友人の姉に見られてそれ以上じゃれるわけにもいかず、良介が居住まいを正す。
 それを見て、頬を擦りながら座り直した紅太は、仕事着のスーツ姿のままの姉の姿に首をかしげた。
「姉ちゃん、今帰ってきたの?」
「っそ。会議ばっかでさー」
「会議?」
「ファッションショーの企画会議」
 そう言いながら軽く肩を回し、ドアの枠にもたれかかる。
「ずっと推してたデザイナーなの。やっとショーまでこぎつけたんだけどね、スポンサーがさー……」
「スポンサー?」
 不思議そうな紅太に、姉は少し困ったように笑った。
「色々あるってこと」
 そこで話を打ち切り、もたれていた枠から体を起こす。そのまま部屋を出て行こうとして、姉は思い出したように二人を振り返った。
「お姉ちゃんお風呂入ってくるわ。あんたたちも、あんまり遅くまで遊んでるんじゃないわよ」
「はーい」
 そうして出て行く姉を見送っていると、ドアノブが音を立てて閉まる。
それを確認して、紅太は改めてテレビに向き直った。
「よし。じゃ、見るか!」
「お前な……」



 机の上に散乱したデザイン案。赤いペンで大きくバツを入れられたその存在が堪らなく悔しくて、感情のまま机に向かって拳を振り下ろす。
 衝撃で揺れた机からは、他にもたくさんあった紙が散らばり、鉛筆や色鉛筆が床に転がり落ちた。
 どんなに描いても通らない――伝わらない。
「……どうしろって言うのよ……!!」
 どうして伝わらない。そんなにも魅力がないのだろうか。だったら、どうすれば伝わるというのだろう。
 机から転がり落ちた色鉛筆が床の上を転がって、部屋の端で止まる。それはごく淡い光を放つと、人知れず子供の姿に変わった。
 目を見張るような赤い髪をボブカットにした、釣り目がちで、厚い唇の少女。
 項垂れたまま顔を上げない人影の背後で、それを見ていた少女は、空気の中へ溶けるように姿を消した。



 本鈴どころか予鈴すら鳴る前の、クラスメイトも半数しか登校していないような時間帯。
「おはよー……ふぁあ……っふ」
〈おはよう、二人とも。今日もいい朝だな!〉
 そんな彼にしては非常に珍しい時間に姿を見せた紅太に、良介と清夏は少々面食らった。
「……はよ」
「おはよう……眠そうだね、亘くん。大丈夫?」
「お前、ちゃんと寝たのか? DVDにかじりつきだったんじゃないだろうな?」
「んー……」
 紅太はいかにも眠たそうに目をこすると、かばんの中身をそのままに机に突っ伏してしまった。
「おーっす……って、え!? ……え? あれ? あ……なんだよ、亘。お前がいたから遅刻したかと思ったじゃねーか」
「あー……わりー……」
「お前、それは怒るところだぞ……」
 紅太の後にやってきたクラスメイトが元気に失礼なことを言うが、紅太にとってはそれ以上に睡魔との闘いが重要らしい。戦局は敗色濃厚だ。
 そんなことより、と、その男子生徒が隣の席から身を乗り出してくる。
「な、お前ら今日のメンズサークル見た? 流星ファッションだってよ! 今日の帰り、商店街に寄ってかねえ?」
「は? 商店街? やだよ」
「ちぇ、ったくノリ悪いなー。まぁいいや、斉藤誘おうっと」
 興味のない話題ということもあってさらりと断ってしまったが、なんだか意外なことを言われた気がして良介は眉根を寄せた。今の男子生徒は、たしかにゲームセンターやらテーマパークやら遊ぶことに関する情報は早かったけれど、ファッション雑誌に関心を示すようなタイプではなかったような気がするのだが。
「……なんだ……?」
「そういえば、今朝のバス停もすごかったよ。フリーペーパーなんかが置いてあるラック、あるでしょう? 全部しっちゃかめっちゃかになってて……」
「へー……」
 良介の疑問を正確に汲み取ったのだろう、清夏が言った。おそらく皆が先を争って奪い合った結果なのだろう。しかしバス停近くのラックといえば、昨日まではフリーペーパーなんて束になって残っていたのに。
〈ったく、うるせぇな……〉
 不意にルーナのうなり声が聞こえて、良介は今しがた浮かんだ疑問より今朝の顛末を思い出し、小さな溜息をついた。
〈なんだ、今起きたのかルーナ〉
〈黙れ鶏男、やかましい。この朝方人間のせいで無理矢理起こされたんだ。くそっ……〉
「ねぇ、亘くん。ねぇねぇ」
 今度は別の女子生徒が来て、突っ伏した紅太の肩を軽く引っ張って紅太を起こした。
「んー……?」
「亘くんのお姉さんって、デザイナーの佐渡鎮華と一緒に仕事してるんでしょう? サインとかもらえないかなぁ?」
「……サワタリぃ……?」
 睡眠不足も手伝ってだろう、紅太なりに思い出そう頭を懸命に動かしているが、思うような結果には結びつかないらしい。もともとそういった世界に明るい性質ではないのだから、なおさらだろう。
 とはいえ、そういった世界に疎いのは良介も同じで、聞き覚えの無い有名人らしい名前につい清夏を見る。
「佐渡鎮華?」
「藍川くん、知らない? 最近大人気のデザイナーでね、メンズも作ってる……」
「あー……そういや、姉ちゃんの友達のシズカさんならぁ、ウチにたまに飲みに来てたけどぉ……」