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マーカー戦隊 サンカラーズ

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 しかしそれを不思議に思う間もなく、ブラックに急かされた良介は反射的に公園の噴水へ意識を向ける。
「遠いな……だったら――」
 言いながらブラックは、補充した武器を噴水に向かって投げた。命中したそれで噴水の噴射口が壊れ、空に噴きあがった水が雨のようにあたりに降り注ぐ。
 ノートは悲鳴のような叫び声をあげると、それから逃れようとしてか両手を振り回して暴れた。
〈あっ、関口さんが!!〉
 青白い清夏の体は横たわったまま、今にも傷つけられそうな距離にあってもピクリとも動かない。
「ブラック!!」
「ああ!」
 合図と共にレッドが混乱しているノートを押さえつけたかと思うと、それを飛び越えたブラックがすぐに清夏を抱き上げる。その流れのまま一動作を離れたブラックは、ゆっくりと清夏の体を地面に下ろした。
〈ブラック、関口は!?〉
「落ち着け。今お前が怒鳴っても、どうせ彼女には何も聞こえてはいないんだ」
〈けど……!〉
 顔色は悪いものの怪我はなく無事らしい清夏の状態を、良介はブラックの意識から読み取った。ひとまず最悪の状況は免れたらしい。そう思うと、良介の口から小さな溜息が漏れた。
 そこへレッドが転がってきて、ブラックがすぐに意識をノートへ戻す。転がってきたといっても、レッドは特にダメージを負ったわけではないらしく、身軽な動作で立ち上がると再び剣を構え直した。
 ノートは腕を上げ、頭を抱えるようにして叫び声をあげる。
「やめて! 私を見て、私だけを!!」
 雨に解けた砂糖菓子が、まるで泣き叫ぶ子供の涙のように、地面に滴っていた。
「……お前の目に留まりたい一心で、他の人間の記憶を消したらしい。大したもんだな、良介」
〈え……俺?〉
「気の毒に……」
 腑に落ちない良介をよそに、ブラックが再びノートへ小刀を投げつける。
「レッド、今だ!」
「ああ!!」
 そしてその隙間へ突っ込んでいったレッドが、大きく剣を薙いだ。摩擦から飛び散った火花が大きく爆ぜたかと思うと、吹っ飛んだノートは空中でさらに爆発する。
ノートは大きな悲鳴を上げたかと思うと、強い光をあげて花火のように弾けた。
弾け飛んだ光はひとつにまとまったかと思うと高く空に舞い上がり、星のように瞬きながら町中へ降り注いでいく。
 その光のひとつがブラックの元へ入り込んでくるのを確認してから、二人はそれぞれの体を持ち主の意識へ戻した。
「今の光は……?」
〈ノートが奪っていた記憶だ。ノートが消えれば記憶は宙に浮く。奪われてすぐのものなら、放っておいても自然に持ち主の元へ帰る〉
 良介の問いに、ルーナが静かな声で答える。
〈……どんな理由があろうと、他人の記憶を勝手に奪うことは許されない〉
 怒りさえ滲んで聞こえる声音に、良介はゆっくりと息を吸った。
「……それがお前たちの、役目、なのか?」
 良介の意識の中で、ルーナが黙って目を閉じたような気がした。



――翌朝。
一昨日ぶりの平和な早朝を打ち壊したのは、教室で良介と紅太の姿を見つけるなり勢いよく頭を下げた清夏の声だった。
「昨日はごめんなさいっ! よくわからないけど、私……迷惑、かけちゃったんだよね……?」
 お詫びだろう、今度はマドレーヌの入ったピンク色の包みを差し出され、大喜びの紅太がそれを受け取る。
「いーっていーって。関口さんのせいじゃないし、不可抗力だよ。なっ、良介!」
「なんで俺に振るんだよ……」
「藍川くん……」
 不安そうに見上げられて、良介は詰まった。
「……気にしてねぇよ」
「カッコつけてんなよー」
「うるせぇ! だいたいお前、モノ食いながら喋るんじゃねえよ。行儀の悪い」
 良介の小言を聞いているのかいないのか、紅太はさっそく包みを開けると、マドレーヌを頬張りはじめた。
表面に薄くかけられたパウダーシュガーが、ぱらぱらと零れ落ちる。
「ん。ねぇ、そういえばさ。そもそも関口さんはなんで、良介にお菓子あげたの?」
「えっ!?」
〈そうだな、俺もそれが気になっていた〉
 紅太の疑問に、なぜかレッドも食いつく。
「そっ、それは……」
 その問いに、わずかに俯いた清夏の頬がみるみるうちに赤く染まった。
「あのっ、藍川くん! 私と……っ!!」
その変化をただ眺めている二人の前で、不意に清夏は勢いよく顔を上げると、良介に向かって口を開く。
「私とお友達になってください!!」
 そして言葉と一緒に九〇度頭を下げられて、その勢いに良介は面食らった。紅太たちは良介の背後で床に転がった。
「本当はね、入学した時からずっと気になってたの。藍川くんって、最初はちょっと怖いのかなって思ったんだけど、怒る内容はなんだかおばあちゃんみたいだし。亘くんと遊んでるところを見てたら、そんなに怖くないのかなって。それで……」
 矢継ぎ早の言葉を処理でない良介をよそに、紅太と体内居候らは勝手に納得したらしく、それぞれ感嘆のような溜息をつく。
〈ほう、料理が好きなんだな。素敵な同級生じゃないか、良介〉
「なんだ、コイバナじゃないのか。つまんねー」
〈なんなら朝晩の食事を頼んだらどうだ?〉
 何を勝手なことを、と良介の苛立ちがつのる。
「藍川くん、ダメ……?」
 しかしまたも清夏から不安そうに見上げられ、再度、良介は詰まった。
「…………………………べ……」
「?べ??」
「……別に、いいけど……」
 その良介の返事を合図にしたように、紅太がなぜか天井を仰ぎ、マドレーヌ片手にガッツポーズをする。
「皆の衆ー! 良介に娘ができたぞーっ!」
「おお、十五歳で二人の子持ちか。頑張るなー藍川!」
「俺も良介パパって呼んでもいいー?」
「うるせえーっ!!」
 一昨日ぶりに戻ってきた、平和な朝の教室の風景。
 かけられたパウダーシュガーの下から、少しだけ焦げた表面の生地が覗いていた。