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マーカー戦隊 サンカラーズ

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「ありがとう!」
 まさかそこに敵が待機しているとは思えなかったけれど、それでも行けば、何か残っているかもしれない。とにかくいくつかの手がかりが得られたこと、そして行く先が定まったことに安堵して、良介は踵を返した。
 まずは紅太と合流して、それから教師の目を盗み学校を抜け出さなければならない。できるだけ早く移動した方がいいだろうと、良介は廊下に人影がないか気配を探る。下手に見つかって追いかけられる方が、ずっと時間を食われそうだ。
「あっ、藍川くん!」
 不意に背後から呼び止められて、良介は足を止める。
「なんだ? どうかしたか?」
 呼び止めた清夏の方は俯いたまま、スカートの裾を握り締め、良介に向かって口を開いた。
「……気になるの? その子のこと」
 そう尋ねた清夏の声は、少しだけ震えている。
「良介ぇー! どこだー!?」
「あ……悪ぃ、関口。急ぐから、また後でな!!」
 しかし廊下から聞こえてきた紅太の声に意識が逸れて、良介はそのまま教室から飛び出した。
 その場に残された清夏の背後から、白いもやのようなものが立ち上る。
 そしてそれは綿のようなものに己を形作ると、一瞬で清夏の全身を包み込んだ。

 教師たちに追われながら、二人並んで一気に校庭を駆け抜ける。
「敵の居場所、わかったのか?」
 わずかにだが自分に続く格好の紅太を振り返り、状況を説明しようと良介は口を開いた。
「関口が昨日、変な奴とぶつかったって。それ聞いて、ルーナがそいつだって言って」
「そうなの?」
〈ああ〉
 勢いのまま閉ざされた校門に手をかけて、飛び越える。
「それで、場所は?」
「ああ、場所は……」
 その質問に答えようとしたところで、急に思考が真っ白になって、良介は動揺した。
自分たちがこれから向かう先を、たしかに清夏から聞いたはずなのに、それがどこなのか分からない。そもそも本当に聞き出したのか疑わしくなって、いや聞き出したはずなのだと、みるみる内に思考が交錯していく。混乱して、わけがわからなくなっていく。
〈駅前公園裏の文房具屋から、大通りに出る途中の道だそうだ。相手は茶髪の、目の大きな少女だと〉
「そっか。とにかく、行ってみよう!」
 良介の動揺を察したのか、いやに冷静なルーナの声が、良介の意識を現実に引き戻した。
〈記憶を操られる気分は分かったか?〉
「ルーナ……」
〈それを止めるために、俺たちは奴を追っているんだ〉
 その声は静かなものだったけれど、ひどく重い響きをもって、良介の中に沈み込んでいった。



 ようやく現場にたどり着き、良介と紅太はあたりを見回した。特別見晴らしがいいような場所ではなかったけれど、それなりに開けていて、人通りが激しくない分、探し物をするには悪くない。
〈いた! あそこだ!〉
 唐突に響いたソレーユの声に顔を上げると、隣のビルの屋上から飛び降りたような角度で、こちらに飛び込んでくる影が視界に入った。
「嬉しい、私に会いに来てくれたのね!」
 その人影はハニーブロンドとフリルのスカートを風になびかせ、両手を広げて一直線にこちらに向かってくる。
 その光景に面食らったのは良介だけではなかったらしく、紅太もあんぐりと口を開けてその様子を眺めていた。
「ウソ、あれ……普通の女の子じゃん……」
〈心配するな紅太、すぐに?普通の女の子?じゃなくなる。変身するぞ!〉
「お、おう! 変身っ!!」
 しかしソレーユに急かされて我に返ったのか、紅太はすぐにレッドへと変身する。赤い光に紅太の全身が包まれたかと思うと、例のヒーロースーツに格好が変わった。
 それと同時に、今の今まで普通の女の子だった影が白く光る。そして光がおさまったかと思うと、人影は、大きな砂糖菓子を寄り合わせたような、妙な形へと変化していた。
 明らかに人ではなくなった影がこちらへ飛び込んでくる。その前に、良介は慌ててその場から距離を取った。するとすぐに、どこからか剣を取り出したレッドが、良介と敵の間に割って入る。
「酷いわ……私のこと、嫌い?」
「嫌いじゃないが、お前が暴れまわるのを好きにさせておく訳にもいかないからな」
 レッドが剣を振りかぶる。
ノートは片手を振り上げると、腕の中身をてのひらに集めるように、手の先へ向かって自身の腕を大きく振り下ろした。そうして腕を大きな泡だて器のような形に変えたかと思うと、けたたましい音を立ててそれを回転させる。
 その変化に目を奪われていた良介だったが、一瞬視界に移りこんだ小さな人影に気付いた。
〈良介、俺たちも変身だ〉
「……おい、ルーナ。あれ……!!」
 ノートの背後に倒れているのは、同じ学校の女子用学生服。
「関口!!」
 知り合いの青白い顔に、焦った良介が声をかける。
途端にレッドと打ち合っていたノートは向きを変え、良介を見るやこちらへ突っ込んできた。
「いやよ! やめて、余所見しないで!」
「うわっ……っとと!」
 その突撃を間一髪で避けると、良介の代わりにえぐられた地面がもうもうと土ぼこりをあげた。
 そのドリルのような威力に呆けている間もなく、ノートが振りかぶり、良介めがけて大型泡だて器を振り下ろす。それを、寝返りをうつ要領でなんとか避けて、良介は唾を飲み込んだ。
〈ボサッとするな良介! いくぞ!!〉
「わかったよ! へっ……変身!」
 ルーナに無理矢理立ち上がらされ、良介は半ば操られるまま胸に手を当てた。
 胸に当てた手の先から、青黒い光が全身を包みこんでいく。それと体が硬いスーツに包まれていく感覚が広がり、意識が体から離れていく浮遊感。
 良介が完全にブラックへ体を明け渡すと、剣を構えたレッドがその隣に並んだ。ブラックが小刀のような武器を四つずつ、両手の指の間に挟みこむ。
「いくぞ!」
「ああ!!」
二人はノートに向かい合うと、同時に武器を構え直し、斬りこんでいった。
ブラックが投擲した光のつぶてをノートが飛んで避ける。そして着地した瞬間を狙って、レッドが大きく剣を振り下ろした。
 しかしついさっきまでは硬かったノートの体が、レッドの剣に触れた途端に粉に変わる。
レッド攻撃が空を掻く。そこにまた実体を持ったノートの攻撃が腹へ直撃して、レッドの体が小さな火花と共に反動で弾き飛んだ。
 投げ出されたレッドは、しかしすぐに起き上がると、立ち膝の状態で剣を構える。
「くそっ……ダメだ、細かすぎる」
 どうやら粉の塊らしいノートにブラックが舌打ちした。
「どんなに嫌がってもダメよ。あなたの世界には、もう私しかいない。私だけいればいいんだから」
 劣勢のこちらに向けて、嘲笑うというよりは酷くうっとりとした様子で、ノートが笑う。
 どうしたらいいのだろう、と良介は必死に考えをめぐらせる。とにかく、こちらの攻撃が敵に当たればいいのだ。敵が粒状だというなら、何かつなぎがあればいいのかもしれない。
 そこまで良介が考えたところで、なぜか紅太が息を呑んだ。
〈そうだよ良介! あっちに公園の噴水があるんだ、水かけたら粉に戻れなくなるんじゃない!?〉
「それだ! 紅太、ナイス!!」
「それで、噴水はどこにあるんだ!?」