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マーカー戦隊 サンカラーズ

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「お前、たかったんじゃねぇだろうな? 可哀想だろ。あんな、いかにも気の弱そうな女子……」
〈自分は相手を覚えてもいないくせに、?可哀想?か……〉
 プレゼントを取り返しながら言えば、頭の中から人を馬鹿にしたような溜息が聞こえてきて、良介は眉根を寄せる。
「なんだよ。どういう意味だ?」
〈さぁな?〉
〈いいな、青春だな良介! うらやましいぞ〉
「はぁ?」
 困惑を前面に出しても、誰もまともに取り合ってくれない。
「なぁ良介、中身見せてよ。ケーキ? いや、そのサイズならクッキーかな?」
「うるっせぇな。歩きにくいだろ、離れろよ」
「見せてって……あ!」
 紅太は相変わらず包みの中身にしか関心がないようだったが、次第に姿を見せ始めた同級生たちの後姿に気が変わったのか、それを追ってばたばたと駆け出す。
「おはよー! なぁ聞いてよ、良介がお菓子もらっててさー」
「ちょ、言うなよバカ!」
 いかにも楽しげな紅太の様子だったが、しかし話しかけられた相手の方は何も反応を示さず、すぐそばを通り過ぎていった。
「……あれ?」
「なんだ……?」
 あっけらかんとした紅太の態度には、もちろん紅太自身の積極的に他者に絡んでいく性質もあるのだろうが、皆を巻き込むようなところがある。だから普段であれば、紅太が誰に話しかけているのか分からない状況であってさえ当たり前に誰かからの返事が聞ける。しかしこのときは紅太への返事がなぜかわずかにも見られなくて、二人は足を止めた。
 しかしそこは、簡単にはめげない紅太である。今しがたすぐ横を通り過ぎた別の同級生に気付くと、相手の肩をつかんで強引に引き止めた。
「ねぇ、おはようってば! どうしたの――」
 しかし相手の方は、思いもよらないといった風に目を見開いて驚き、すぐに訝しげに眉をひそめた。
「……誰?」
「え?」
 そして返されたのは、思いもよらない答え。
「君たち、誰……?」
 けして嘘を言っている風ではない相手の言葉に、困惑した紅太が良介を見る。けれど良介にだって、今の状況を整理することはできなかった。



「紅太! どうだ!?」
「ダメだよ! 学校中回ったけど、先生も誰も、俺たちのこと覚えてない!」
「マジかよ……」
 同級生たちの思わぬ反応を見て、良介はすぐ紅太と共に学校に向かって駆け出した。
そのまま一気に教室に駆け込めば、普段と同じような机の配置が視界に飛び込んでくる。しかしよく見ると、縦に並んでいたはずの良介と紅太の席は無く、クラスメイトたちも闖入者を見るような目で二人を見ていた。
 その反応に改めて現状を突きつけられた気がして、とにかく自分たちのことを覚えている人を探そうと、良介たちは二手に分かれて学校中を駆け回った。しかし結果は散々なものだ。
 校舎の端にある階段の一階部分の影に隠れ、打つ手の無さにそろって頭を抱える。
〈……きたか〉
「え? なに、ソレーユ?」
〈おそらく、ブランシュの仕業だ〉
 しかしソレーユたちにとっては想定の範囲内だったらしく、意外に余裕のある反応が返ってきて、二人は顔を見合わせた。
「なぁ、それって、どういう……?」
〈奴らは?ノート?と呼ばれる怪物を保管庫代わりにして、人間の記憶を集める。記憶そのものが、奴らのエネルギー源だからな〉
「エネルギー源……」
〈あいつはそうやって、いずれこの世のすべての記憶を手に入れるつもりだ〉
 言われていることをなかなか消化できず、良介は乱暴に髪をかいた。昨日相対した女――ブランシュが、ノートと呼ばれる怪物を操り、人間の記憶を奪っていく。ならば今回は、その奪われた記憶の中に良介と紅太の存在が入っていたのだろう。冗談ではない。
 とはいえ、一体どうすればいいのだろう。誰も自分たちのことを覚えていないせいで、校内で自分たちはすでに不審者扱いになっているし、敵への対抗手段を探そうにもろくに動き回れなくなってしまった上、そもそも何をどうすればいいのかも分からない。
 俯いて少し暗くなった視界に、不意にかばんの上に乗ったピンク色の包みが飛び込んできて、良介は目を見開いた。
「……関口……!」
「え?」
「関口だよ! あいつ、俺たちのことちゃんと知ってただろ!!」
 ほとんど初対面のような相手だけれど、今はあの大人しそうな同級生に賭けるしかなかった。



 蜂蜜色の髪を弄びながら、少女は大きな目をうっとりと細めて、良介たちを想う。
「そう。そうやって、私のことだけ考えてくれればいいの」
 そして自分の宿主――関口清夏の姿を見下ろした。良介にプレゼントができた嬉しさからか少し頬を染めている様子に、少女の顔に笑みが浮かぶ。
「……他の人のことなんて忘れて……ね」
きっと清夏も喜んでいるだろう現状に、少女はころころと酷く可愛らしい笑い声をあげた。



 廊下の向こう側に清夏の後姿を見つけて、良介は手を伸ばすと思い切りその肩を引っ張った。
「関口!」
「えっ?」
 当然だが驚いたらしい清夏は、一瞬身を硬くしたものの、良介だと気付いてすぐに体から力を抜く。
しかしそのまま空き教室に引っ張り込まれると、さすがに警戒した態度になって、じっと良介の出方を伺っていた。
 とはいえ、良介だってここで引くわけにはいかないのだ。せめて、今現在においても、なぜ彼女だけが自分たちのことを覚えているのかが知りたい。
「あ、藍川くん……どうか、した?」
「関口、お前……昨日、なんか変わったことなかったか?」
「昨日……?」
 良介の問いに、清夏は少し考えるように視線を巡らせる。
「えっと……昨日は、学校から帰って。買い物に行って、クッキー焼いて……それだけだよ?」
 しかし期待したような回答は得られず、良介は大きく肩を落とす。その反応に、悪いと思ったのだろう、清夏はさらに考えるように眉根を寄せた。
 一方で、良介は別のことを考える。もしかして、清夏が自分たちのことを覚えていることに、理由なんてないのだろうか。偶然なのかもしれない。けれど果たして、そんな偶然があるものなのか。
「……あ」
 もらしたような清夏の声に、良介は顔を上げる。
「なんだ!?」
「あのね、私、ノートを買いに行ったの。それで、その帰りに女の子とぶつかって、他のものも一緒にかばんの中身をぶちまけちゃって……相手の子も一緒に拾ってくれたんだけど」
 変わったことと言った良介に応えようとしてくれているのだろう。けれど聞かされた話は、あまり関係があることのようにも思えない。
〈――それだ〉
 しかし良介体内の専門家はそうは取らなかったようで、それについて詳しく聞くようにと意識の中から良介をせっついた。
 ルーナに促されるまま、良介は口を開く。
「関口。それ、どんな奴だった?」
「えっ!? あ……えっと。茶色い髪に、ゆるいパーマがかかってて、ひらひらフリルがいっぱいの服着てて、目がパッチリしてて……」
 言いながら思い出しているのか、清夏の声がだんだんと小さくなっていった。
「すっごく、可愛い感じの……」
 そこまで答えたところで、清夏が口を閉じてしまう。
「場所は? どこでぶつかったんだ!?」
「……駅前公園の、裏の文房具屋さんから、大通りに出る途中の道……」