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マーカー戦隊 サンカラーズ

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【第二話 蜂蜜色の気持ち】


 その日は同級生の尻拭いに付き合わされて、学校帰りに近所の空き家に立ち寄った。
 そして着いた途端に大きな爆発音が轟く、その音を聞いて何を思い付いたのか、慌てて駆け出した同級生の後を追った。
そのまま敷地内に建っていた寂れた屋敷に入り込んで、埃だらけの廊下を通りぬけて。
「――! ちょっと、なんなんだよこれ!?」
 いきなり開いたドアに驚く暇もなく、向こうから男の人が二人吹っ飛んできて、良介は慌てて二人のそばに駆け寄った。
「ちょっと……どうしたんですか!?」
少し遅れて紅太が来て、とりあえず近くにいた方の腕を取り、引っ張り起こす。
 男にしては長めの髪に隠された相手の顔は、覗きこんでみてもよくわからない。しかし傷だらけになっているのは見間違いようがなくて、一体どう扱えばいいのかと少し戸惑う。
「う……」
 揺らされたためか、目を覚ました男がかすれた声でうめいた。
それに気がついて、良介はうつむいたままの男の顔を覗きこむ。なんだかどこかで見たことがあるような顔立ちだけれど、それ以上にところどころ覗く血が痛々しくて堪らない。
「……っ、お前は……?」
 男は薄く目を開くと、良介を見て眉根を寄せた。
「ああ……えっと、あの。さっき爆音がして、それで……」
「それ、で……入ってきたのか……くっ……!」
 この男はこの屋敷の住民だろうか、と一瞬思う。けれどさっき通り過ぎてきた廊下や空き部屋は、どう見ても人が住んでいるような状態ではなかった。
「……あの――」
 しかし良介が口を開いた途端に、急に影がさした気がして良介は振り返った。
 そして目に入った人影に、言葉を失う。
 どこからともなく吹いたゆるい風に、長い銀髪とドレスの裾をなびかせた女の影。
それは良介に一瞬、至近距離にいたような錯覚を抱かせた。けれどよく見れば、軽く数メートルは離れた位置にいる。
 そしてその存在に気付いた途端、男が急に起き上がろうと良介の肩に手をかけた。
「貴様っ……!!」
「え……ちょ……!?」
しかし男は立ち上がれず、膝から倒れこむ。
「ちょっと、まだ無理ですよ! そんな……」
 扱いに困って思わず紅太を見るが、紅太は紅太で茫然自失の状態らしく、起こしたもう一人の男を支えたまま、驚いた表情で女を見つめている。
 しかし男に掴まれた紅太の手の異変に気付いて、良介は驚愕に目を見開いた。
「――おい! 紅太!!」
「へっ?」
 紅太の声をさえぎるようにして、掴みあった二人の両手から赤い光が放散する。その光は男を覆い、そしてすぐに紅太の体を覆い隠した。
「紅太ぁ!!」
「俺も、少し体を借りるぞ……っ!」
「は!?」
 そして自分も男に両手を掴まれて、その力の強さに良介は歯を食いしばった。
 思い切り掴まれたせいか掴まれた、手は酷く痛み、あっという間に冷えて思うように動かなくなる。
「んなっ……!?」
 そして同時に、そこを中心にして両手が青黒く光り始め、良介は息を呑んだ。光はみるみるうちに目の前の男を飲み込み、次の瞬間には良介の体全体を包み込む。
「変身!!」
 光で眩む視界の中、叫ぶような男の声が聞こえたかと思うと、何か硬いもので全身が覆われていった。
それが何なのか分からなくてとっさに触ろうとするが、いつの間にか感覚がなくなってしまった手は少しも動こうとしない。そして自分の体を覆う感触は次第に薄い膜のようなものに変わり、青黒い光に眩んでいた視界がだんだんと戻ってくる。けれど良介の自由になるのはそれだけだ。
 不意に、良介の両手が拳を作った。それは動作を確かめるように何度か閉じたり開いたりを繰り返すと、振り払うように動かされる。
「インテグレイション完了。……ああ、悪くないな」
 そして、たしかに良介自身の口から発せられているはずなのに、自分のそれとはまるで違う声が、良介の耳に届いた。
〈え……?〉
「俺たちにはあの女を捕らえる必要があってな。勝手をして悪いが、しばらく堪えてもらうぞ」
〈は……はあああああああ!?〉
 ようやく完全に視界が戻って、自分の姿に目をやる。視界の中には黒と青の、まるで特撮ヒーローが着ているようなスーツを着た自分の姿があって、良介は叫んだ。
良介の恐慌に構わず、体は勝手に横へ首をめぐらせる。
「レッド!」
〈?レッド?!?〉
「大丈夫だ、ブラック!」
 良介の体を乗っ取った男が呼びかけた。すると、今良介の体が着ているそれとよく似た、けれど色味が違う赤と白のスーツを着た?特撮ヒーロー?が、拳を振り上げてそれに応える。
「心配するな。君の友達の体は、必ず返す」
 レッドは親指を立てて見せると、良介に向けたものだろう、やたらとはっきりした口調でそう請け負った。
 しかし焦った良介には、一体何を言われているのか分からない。そういえば紅太はどこだろう、と思う。赤い光に包まれたところまでは、良介もたしかに見ていたのだ。
 ふとその光景を思い出して、そうしてやっと思い当たった可能性に、良介はレッドに向かって思い切り声をあげる。
〈紅太!? おい、紅太!!〉
〈良介!!〉
〈紅太!! よかった、無事だったか!〉
 良介の呼びかけに、紅太の声が答える。おそらく紅太も良介と同じ状況にいるのだろう。だとすれば、無事だとは言えないのかもしれないが。
〈良介、お前ブラックだったんだなぁ。カッケーな。俺、知らなかったよ〉
 しかし良介の心配をよそに、紅太は緊張感のない声で感想を述べた。
〈おまっ……っ! あーあーそーかよ俺だって今さっき初めて知ったよ! お前だってレッドじゃねーかブラックで悪ぃかばーかばーか!〉
〈ちょ、なんでバカなんだよ!? せっかく褒めたのに!!〉
 のんきな紅太に対して、良介は怒りに血管を浮かせたような勢いで怒鳴る。
「盛り上がっているところ悪いが……」
 そんな意識の中だけで行われている不毛な言い合いを、良介の声帯から出たブラックの静かな声が制止する。
「……いくぞ」
〈え……いく?〉
「ああ!」
 良介と紅太の遣り取りに構うこともなく、ヒーロー二人は相対する敵に意識を向けたままだったらしい。
 スーツを装着した良介の体は良介の自由にならないまま、少しも動かずにじっとこちらを見つめている先ほどの女に向かう。
「……そう。今度はその子達なのね、サンカラーズ」
 女はゆっくりと目を伏せると、静かな声でそう呟いた。
 そうして右手を軽く握ると、ゆっくりした動作でその手を掲げる。そのうちに女の右手がじんわり光り始めたかと思うと、指の隙間からもれた光が液体のように指の間を伝い、滴り落ちた。
 音もなく床に落ちたそれは、白い液体になって女の足元に広がっていく。
「だったらその記憶、せいぜい深くその身に刻むがいいわ」
 嘲笑うような女の言葉に、液体が一点に集まったかと思うと、そのまま勢いよく天井に向かって噴き出した。
 舞い上がり水蒸気のようになった白い液体は、しばらく宙を漂ったかと思うと、再びまとまって小さな雲を形作る。
 その動向を警戒して動けないでいる二人に、女は背を向けると肩越しに振り返った。その視線は優越感に似た光を帯び、次いで良介たちの気配を探るような仕草を見せ、唇を歪める。