マーカー戦隊 サンカラーズ
互いに顔を見合わせて頷くと、紅太はゆっくりとドアノブに手をかけた。少し重い感触は錆によるものではないらしく、滑らかな手ごたえが紅太の手に伝わる。
このドアの奥は、一体どうなっているのだろう。
それは果たして責任感なのか、それとも冒険心の一種なのか。もはやどちらなのか分からなくなってしまった二人の心境は、思うよりずっと感覚を敏感にしていた。
内部から聞こえるかすかな音を察知して、何も言わずに二人は視線で合図をする。そして本当にかすかにしか聞こえない音からなんとか内部の様子を知ろうと、二人は唾を飲み込み、ぐっと耳をそばだてる。
そこへ、ドアが大きな音と共に激しく揺れた。
「っ、うぎゃあああああ!!」
「うおっ……!?」
おそらく何かが勢いよくぶつかったのだろう音と振動に続き、反動でかドアがいきなり全開になる。
その途端に足元へ何か大きなものが崩れ落ちてきて、三重にびっくりした紅太は目を閉じて思わず頭をかばった。条件反射みたいなものだ。
しかししばらくそうしていても、それ以上の異変はない。
そうなると今度は、周囲を確認していないことが不安になってくる。かといって確認すること自体が怖いことは変わらないので、紅太はゆっくりと、恐る恐る目を開けた。頭をかばった腕の影から、なんとか現在の状況を確かめようと目を凝らす。
「――! ちょっと、なんなんだよこれ!?」
しかし紅太が目を完全に開くより早く、良介が慌てた声を上げた。
何かと思って顔を巡らせればボロボロになった男が二人倒れていて、さらにその二人がなんとか立ち上がろうとしているのに気付く。そしてそれに駆け寄る、良介の姿も。
驚いて動けずにいた紅太は、二人の内の一人に気付くと、目を見開いた。
「あんた、今朝の……!?」
「え……?」
しかしもう一人の方を支えている良介が目の端に映り、我に返った紅太は慌てて男を抱き起こそうと手を伸ばした。
「えっと……大丈夫、ですか……?」
「君は……っ!!」
すると男は驚いた顔で紅太を見上げ、掠れた声に動揺を滲ませて呟く。
「なぜ……私のことを、覚えて……?」
「なぜって……」
なぜと聞かれても、紅太だってさすがに今朝あったばかりのことを、しかもそれなりに衝撃的だった出来事を、そんなに簡単に忘れたりはしない。
男からは、今朝感じた威圧感など少しも感じられなかった。手を取れば自然に目に入る、擦れて血だらけになった手は、いかにも痛そうで、ちらちらと視界に入る度にどうしても顔が引きつってしまう。
しかし男は紅太が差し出した手をつかみ、握り返した。その力は握られた紅太の方が痛いほど強くて、そんなにも辛いのかと思えば、紅太煮は一生懸命支えることしか思いつかない。
男は不安定ながらもなんとか立ち上がると、紅太の両手をつかみ、さらに力をこめて握り締めた。
「た……む……ちか、ら……っ!」
「え……?」
「……ちから、を……貸して、くれっ……!!」
男の搾り出すような声に、ようやく怪我人以外の存在に気付いて、紅太は肩を強張らせた。
なぜ今の今まで気付かなかったのだろう。そう思うほどに、その人影は強烈な気配をまとって紅太の背後にいる。気配に圧迫された気がして冷や汗をかきながらも、やはり確認しないのも恐ろしくて、紅太は恐る恐る振り返った。
ゆっくりと視界に入り込んでくるのは、風もないのに美しく広がった長い銀髪と、透けるように白い肌。赤い唇がいやに目を引いて、整った顔立ちのはずなのに、なんだか気持ちが悪くて仕方がない。
白いドレスを着た銀髪の女が、表情の無い視線で自分たちを見ていた。
「――おい! 紅太!!」
「へっ?」
良介の叫び声に慌てて振り返れば、男につかまれた手から順に、身体が赤く光っていくのに気付く。
「なん……っ!?」
「――変身!!」
赤くて熱い光に眩む、視界の向こう。
そこにはたしかに自分の手を掴んでいた男の姿が見えていたはずなのに、あまりの眩しさに目を開けていられなくなった紅太は、その姿を見失う。
それと同時に掴まれていた両手全体が燃えるように熱くなって、堪えきれなくなった紅太は思い切り両手を引いた。
作品名:マーカー戦隊 サンカラーズ 作家名:葵悠希