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マーカー戦隊 サンカラーズ

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【最終話 光の色】


 視界が黒い光に包まれる。スーツで全身が覆われて、薄い膜に体中を覆われたような感覚の中、体から意識が乖離するのがわかる。
「……インテグレイション、完了」
 ブラックは両手に円盤を握るとレッドの隣に立ち、ブランシュに向かい合った。
 良介の体から弾かれたブランシュは、瓦礫にもたれかかるような体勢のまま、肩で大きく息をする。
「う……う、ぁ……ああ……!!」
 そしてうめき声をあげ、頭を大きく仰け反らせた。
長い銀髪がうねり、ドレスの裾がはためいて、ブランシュを中心に風が巻き起こる。
「なに……?」
 不安げな清夏を背にかばい、二人は目を凝らしてブランシュの様子を伺った。そしてその中に馴染みのある気配を見つけて、目を見開く。
「なんだと……?」
「あいつ、まさか……一人で変身する気か!?」
 ひときわ強い風が吹いたかと思うと、ブランシュの体が白く光った。その衝撃をやりすごそうと、目の前に腕をかざす。
 そして光の中から無数の光が触手のように伸びてきて、それは互いにつながると大きな網の目を作り上げた。
「……ブランシュ……」
 しかし網は液体のように溶けて形を崩す。それでも光は伸び続け、何かを掴み取ろうともがき続けた。
「ブランシュ、やめろ……やめろシエル!!」
 風に乗って飛び散った光を浴びた瓦礫が、白く染まる。そしてそれは溶けて、崩れ落ちたそれが砂に変わっていく。光の触手が暴れた勢いでちぎれ、無数に飛び散ったそれを、二人はなんとか払い除けた。
「シエル、やめろ! やめるんだ!!」
 レッドが叫ぶが、ただの光の塊になってしまったブランシュに聞こえているのかはわからない。
「シエル!!」
 飛沫のような白い光と共に、体を引きちぎられたようにブランシュの影が蠢く。
自分たちの声が聞こえているのか、届いているのかわからなくて、二人は歯を食いしばった。
〈大丈夫か、ソレーユ!?〉
「くっ……心配するな、紅太。大丈夫だ」
 紅太の声に答えるレッドの声に、いつものような快活さはない。
〈……ルーナ〉
「何も言うなよ、良介……っ!!」
 ブラックも普段の冷淡な態度がなりをひそめ、見境のなくなったブランシュの攻撃をなんとか捌くだけだ。
 次第に風は強まり、息をするのが辛くなる。鋭くなった光の眩しさに前が見えなくなって、攻撃をだんだんと避けられなっていく。地面が揺れ、光が熱に変わる。風が刃のような硬さでぶつかってくる。火花が散る。
 それをなんとか堪えたブラックが、ブランシュに向かって強引に武器を振りかぶった。
 しかし投げつけようとした瞬間、不意に弱くなった光の狭間にブランシュの姿が現れて、ブラックは息を呑む。
――ソレーユ、ルーナ……どうして?
 涙声は頭に直接響いてきて、二人の動きが鈍る。
 その一瞬の間に、光が一直線に清夏に向かって突っ込んでいった。
「え……?」
〈関口!!〉
〈清夏ちゃん!!〉
 白い光は先端を鋭く尖らせて、動けない清夏に向かって突進していく。
 しかし光は清夏に触れる直前でその動きを止めると、ゆっくりと、空気に溶け込むようにその輝きを消していった。
 先端を鋭く尖らせた、うねる触手のような光の源。白く強い光を放っていたそれは徐々に弱まり、ブランシュの姿がはっきりと現れていく。
 それを斬りつけた、レッドとブラックの姿も一緒に。
 ブランシュの体が膝をつき、前に倒れこむ。そのまま横たわる前にブラックが受け止め、ゆっくりした動作でブランシュの肩を抱いた。
ぐったりと動かない体を支え、腕の中にある相手の顔を見下ろす。
 赤と黒。それぞれの光と共に、レッドとブラックの変身がとかれた。
ブランシュを抱きとめていた良介は、わずかに目を伏せると、その体を地面に寝かせる。
「……良介、お前さ……」
 紅太の声に良介は一度振り返ったが、しかしまたブランシュの亡骸へ視線を戻した。
「なぁ、良介――」
「べつに俺だって、世界を終わらせたかったとか、そんな大げさなこと考えてたんじゃねぇよ。ただ……」
 横たえたブランシュの顔は白く、赤かった唇も色あせて、透けて消えそうに見える。
「……ただ、全部嫌になったんだ。そんだけ」
「良介……」
「一瞬だ、ホントに。でも……夢の中でお前の声が聞こえて。?なにしやがる?って、怒鳴ってやろうって思った。人の耳元で大声出すな、ってさ」
 良介の口元が歪み、笑っていた声が震えて、掠れた。
「あいつ、夢の中でずっと俺の頭、撫でてたんだ。もう大丈夫、母さんが守ってあげる……もう泣かなくていいんだよ、とか言って……」
 夢の中でずっと、頭を撫でてくれた。恐怖に怯えて泣く良介を慰めていた優しい手は、きっとブランシュのものだったのだと思う。
「……俺、あいつに守られてた」
「良介……」
「あいつ、俺みたいな奴を助けたかったんだよ。やり方は……他にもっといいやり方が、あったんだろうけど」
 そう思うと何も言えなくなって、良介は息を呑んだ。
 不意にあたたかな温度に頭を撫でられた気がして、顔を上げる。
 しかし見上げても何もなくて、良介は軽く息を吐くと少しだけ笑った。
「……多少は気、済んだかな、あいつ」
「そうだな……そう願う」
 ルーナにしてはめずらしく考えるような言葉の間が、少しおかしかった。そしてじっと様子をうかがっている清夏に、礼を言いたいのと、詫びたいのと。その他にもいろいろと混ざったはっきりしない気分で、ゆっくりと目をやる。
目が合うと、清夏は嬉しそうに、いつものように控えめに笑った。
 紅太は隣に立ったソレーユを見た。何の変化もなさそうな様子に視線を戻し、けれどやはり確かめたくて、口を開く。
「なぁソレーユ。これでお前たちの仕事、終わり?」
「ん? ああ……そうだな」
「そっか……」
 予想通りの返答に、紅太は軽く肩をすくめた。
「意外とあっさりしてんだなー」
「そうか?」
「もっとこう、盛り上がるエンディングかと思ってたのにさ。なぁんかしょぼーんっていうか、なんていうか……」
「ははっ! まぁ、そうかもな」
 唇を尖らせる紅太に、ソレーユが声をあげて笑う。
「でも俺はこれくらいの方がいいな。お前たちにもゆっくり別れが言える」
 そして続けられた言葉に、紅太は呆然と目を見開いた。
「お前もそうだろ? ルーナ」
「……ソレーユ……」
「ああ」
「ルーナも……」
 いつもと同じ気軽なソレーユの態度に、ルーナもいつもと同じ淡々とした態度で答える。まるで当たり前のことを言うような二人の様子は、今の状態が紅太の予想したその先へ進んでいるのだと語っているように見えた。
 呆けている紅太に向き直り、ソレーユは快活に笑う。
「ずいぶん長く体を借りたな。ありがとう、紅太」
 その横でルーナが、良介と清夏に体を向けた。
「良介、それに清夏、君もだ。ありがとう」
「あっ……いえ、そんな……」
「ルーナ……」
 珍しくかすかな笑みを見せたルーナに、その上改まった挨拶をされ、驚いた良介も慌てて立ち上がる。
不意に足元が光った気がして目をやると、横たえたブランシュの体が白く光りだした。
「おい、ブランシュの体が……!」