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マーカー戦隊 サンカラーズ

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 一時限目が始まる前のそれなりに騒がしかった教室が、良介の怒鳴り声で一瞬静まり返る。
 再度集まった注目には、さすがに良介もしまったと思ったようで、口に手を当てて大きく深呼吸する。
「しかも怒られたとか……お前、絶対バレるぞ、それ」
 あっけらかんとした紅太に対し、顔を引きつらせた良介が小声で言った。
「え? バレるかな?」
「バレるわ! まず制服で学校がバレるだろ!? んで、次は時間でバレるじゃねえか! 完璧だろ!!」
 しかしそう言われても、紅太にはあまりピンとこない。薄情にも、怒っている良介ばかりを見ていても仕方がないしと、書き取りを再開したところで、良介の方も多少落ち着いたのか幾分冷静な声音になる。眉間に皺は寄ったままだが。
「お前、相手が悪けりゃ指導だぞ。ただでさえ遅刻の常習で目ぇつけられてんのに……」
 紅太の危機なのに、まるで自分の危機でも語るような苦々しさで、良介が溜息をつく。
 指導という言葉はさすがに引っかかって、紅太は手を止めて良介を見た。
「……マジで?」
 良介は何も言わない。が、表情は否定も肯定も語ろうとしていなかった。
 そしてそれが返事として受け取って、紅太は軽く頷くと再度ノートに向かい合う。
「えー、指導は嫌だなぁ……どうしよう。謝りに行けばいいの?」
「運よく先生に知られていなければ、まぁそれも案かもな。今日一日、苦情の電話が入りませんようにって祈っとけよ」
「ん、わかった。じゃあ今日の帰りでいい?」
 顔も上げずに続けられた紅太の言葉に、良介が三度顔を引きつらせる。
「……俺も一緒に来いってのか?」
「前にお前、俺一人の方が心臓に悪いって言ってたじゃん」
 何の含みもなく言った紅太に、言い返せないのか、良介は歯を食いしばっていた。
「なに、お前ら今日どっか行くの? ゲーセンなら俺も付き合う」
「ゲーセンじゃねえよ! あーもー……」
そして入ったクラスメイトからの茶々に、良介はただ見えない空を仰ぐように顔をあげ、大きな溜息をついた。



 そして、その日の放課後。付き添いとして来たはずの良介の後に続く形で、紅太は件の敷地の前に立っていた。
 夕暮れというにはまだ早い時間だけれど、ずいぶんと傾いた陽に照らされる庭は、相変わらず荒れているように見える。こんな風では売り地だと思っても仕方がないと紅太は思った。思ったけれど、それを口に出せばまた良介に叱られることは目に見えているので、口には出さない。
 それにしても、何の生気も感じられない家だと紅太は思った。ぼんやりと眺めているとますますそう感じられて、今朝の人は本当に存在していたのかと、自分の記憶さえなんだか疑わしくなってくる。
 ところで謝りに来たはいいけれど、そういえば相手は今ここにいるのだろうか。それ以前に、呼び鈴がどこにあるか分からない。呼び鈴が鳴らせなければ、結局二度目の不法侵入をするほかなくなってしまうけれど、それは構わないのだろうか。
 そこまで考えたところで、急に胃が締まったような変な感覚がして、紅太は腹を擦った。
「なぁ、良介……怒らないで聞いてほしいんだけど」
「ん?」
「俺、腹減った」
 ばちん、と容赦なく頭を叩かれる。
「いってー! ひでーよ! なにもいきなり殴ることないじゃん!?」
「うっせぇ! 殴りたくもなるわ!」
「しょーがないだろ!? だって俺、朝抜きの早弁だったんだよ!」
「自業自得じゃねーか!!」
 今朝の失礼を詫びに来たはずなのに、門前で怒鳴りあいの大騒ぎ。
 礼を欠くことこの上ないやり取りだったが、幸か不幸かやはり人気のない敷地の前では誰かに叱られることもなかった。
 そして誰に止められることもないまま、怒鳴り合いはだんだんとヒートアップしていく。
「そもそも紅太が寝坊しなけりゃこんな面倒なことにならなかったんだよ! 夜更かしなんかしないでさっさと寝ろよ遅刻常習犯!」
「しょーがないじゃん、宿題終わんなかったんだから!」
「結局終わらなかったんじゃねーか!!」
「数学は終わった!!」
「宿題は数学だけじゃね――」
 唐突に、地面が一段下がったような衝撃が足元に走る。
「へっ!?」
「うわっ!!」
 そこへいきなり爆発音が轟いて、驚いた二人は思わず相手の腕をつかんだ。いまだ縦揺れする地面から放り出されないよう、半ばしがみつくようにして立ったままお互いの体を支える。
 残響のような余震はあるが、すぐに揺れは止んだ。普通に立っていられることを確認して、二人は恐る恐る互いの手を離す。
「……止まった?」
「みたい……だな……」
短い地震のようだった。けれど、だったらその直前に聞こえた爆発音は何だったのろう。
そう疑問を抱いた瞬間に、紅太の脳裏に今朝の男の顔が過ぎった。
それと同時に背筋に悪寒が走って、それに引きずられるように思いついた可能性に、いてもたってもいられなくって顔を上げる。
「あの人……っ!」
「おい、紅太!?」
「ちょっと見てくる!!」
 焦って呼び止める良介に構わず、紅太は駆け出すとそのまま門の中へ飛び込んだ。
雑草が伸び放題の庭を駆け抜けて、勢いよく家のドアを開ける。
入り口だけは妙に立て付けがよくて難なく開いたものの、玄関から奥にかけては、外観から想像できるような酷い荒れ具合だった。ほこりだらけの家具や天井の隅に張った蜘蛛の巣を見る限り、家全体が先ほどの揺れで傾いたような感じはしない。
けれど、おそらく震源地だっただろう音のした方――奥の方は、どうだか分からないのだ。
「紅太、待てって!!」
 呼び声に振り返ると、良介が紅太の後を追いかけて来るのが見えた。
「良介? あれ、外で待ってるんじゃ……」
「しょうがねぇだろ。しっかし、スゲーなここ……こりゃあやっぱ、どう見ても空き家だ」
 良介はいかにも埃っぽい家の中に軽く咳をして、参ったような顔できょろきょろとそこらを見回す。
「ガス爆発とかだったらまずいし、一応ハンカチで口と鼻押さえとけよ」
「俺、ハンカチなんか持ってないよ」
 当たり前のように言う紅太の反応に、想定の範囲内だと言わんばかりの態度で、良介がポケットからハンカチを二枚出す。
「で、なんか変なモンが散らばってても、まじまじ見んなよ。人間の欠片とかだったらトラウマもんだからな」
 その内の一枚を差し出しながら、良介が紅太の隣に立った。
「で? 奥にいるのか?」
「わかんない。けど、いるとしたら奥だろ?」
「まぁ……そうか。庭はなんもなかったし」
 尋ねるような視線をよこした良介へ、紅太は頷くと、今度はゆっくり歩き出した。
 広い家らしく、玄関から長い廊下を歩く間にいくつかの部屋を通り過ぎる。ほとんどの部屋のドアが開いていたので、逐一中を確認しながら進んだけれど、人が住んでいなかったせいで荒れている他には、特に何も妙な点はない。
「誰かいた?」
「いや……お前は? 何か見たか?」
「ううん」
 二人してそうこうしているうちに、気が付けば廊下の突き当たりに着いてしまった。
 そして突き当りには、さらにその奥に部屋あるのだろう、立派なドアが設えてある。
「……この部屋で最後っぽいね」
「だな」