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マーカー戦隊 サンカラーズ

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 そう思うとなんだか寂しくて、清夏はソレーユの顔を見上げた。
「なに? どうかした?」
「あの……えっと。ルーナさんは……?」
 どうしてルーナは良介を迎えに来ないのだろう。もしかして、彼らは良介が今どこにいて、どうしているのかを知っているのだろうか。
 そこまで一気に聞いてしまいたかったけれど、なんとなく口に出し難くて清夏は口篭った。ソレーユは良介によく似ていた顔をしていたけれど、良介が持つ荒い口調のわりに話しかけやすい雰囲気が、この男にはない。
 そう思うと余計に居心地が悪くなって、清夏は俯いた。
 そんな清夏の反応をどう思ったのか、ソレーユが軽く息を吐く。
「……良介が学校に来てないことは、俺たちも知ってるよ。だからルーナは来なかった」
 清夏が思わず顔を上げると、こちらを見ていたソレーユと目が合った。
「でも俺たちには良介の捜索に当てる時間はないんだ。さっきブランシュのノートが出たという連絡が入った。俺たちはそっちを優先させるよ、それが仕事だから」
 そう言ったソレーユの口が笑みの形を描く。その自嘲するような声音に、清夏は無意識に開きかけていた口を噤んだ。良介の扱いについて反発することも、ましてや詰ることなんてできるわけがない。おそらく清夏よりずっと、彼らの方が良介のことを心配しているだろう。
 けれどそうなると、今度は何の協力もできない自分が申し訳なくて、清夏は唇を噛んだ。油断すると涙が出そうだったが、泣いたところでただソレーユを困らせるだけだろう。
 でも――
「……君も来る?」
 こぼすように告げられた提案に、清夏は知らず俯いていた顔を上げて、ソレーユを見た。
「え……?」
「外れる可能性もあるけど、思い当たるところはあるんだ。良介の行方が分かるかもしれない」
 どうしてソレーユは自分を誘ってくれるのだろう、とも思う。けれどそれ以上に――もしも自分にも、やれることがあるのなら。
「亘くん呼んできます!!」
 もしも自分にもやれることがあるのなら、できるだけのことはしたい。
 どんなに迷惑をかけても突き放さずにいてくれた二人に対して、自分ができるのはこの程度のことしかないのだから。


 目標は、通信機が示した場所から二キロほど離れた場所にいた。近くの高台から様子を見下ろして、予想の的中に小さな溜息が出る。
 背後からソレーユの気配と、勢いのいい自転車のチェーンが回る音が聞こえてきて、ルーナは先ほどとは違う溜息を漏らした。
「ルーナ!」
「声がでかい。いたぞ、あそこだ」
 ソレーユの声に、こちらに気付いた目標がルーナたちを見る。
ソレーユに続いてきた紅太は肩で息をしていて、ついて来たらしい清夏が心配そうに紅太の背中を擦っていた。走ってくるには長い距離を、二人乗りで、その上全速力でこげば無理もない。
 息を乱しながらもやっと顔を上げた紅太が、目標を見て目を見張った。
「……ルーナ、ソレーユ。あれって……!?」
「紅太、変身するぞ!」
「くっ……そ! 分かったよ! 変身!!」
 しかしソレーユは紅太の動揺に構わず、当たり前のように変身を促す。やけくそのように紅太が叫ぶと、赤く発光したソレーユが紅太と同化した。
 清夏が不安げな表情でルーナのそばに寄ってくる。心配でついてきたようだが、色々と聞きたそうにしながらも何も尋ねようとしないのは、邪魔をしないようにと清夏なりに気を使ってのことだろう。そもそもこの混乱に巻き込んだのはこちらなのに。
 目標は、全体的に白を基調とした戦闘スーツに身を包んでいた。
そしてそれは、レッド、そしてブラックと同じような姿形のもので。
「……あれはカラーズ・ホワイト。今から一年前に行方不明になった、サンカラーズの一人だ」
 かつてはよく目にしていたそれに、ルーナの声が自然と静かなものになる。
 話を始められたことで清夏もわずかに緊張がとけたらしく、不思議そうにルーナの横顔を見た。
「ホワイト……?」
「俺たちサンカラーズの役割分担として、記憶の記録をブラックが、その修正をレッドが担っている。記録は原本の修正後に清書を上書きされ、正史としてまとめられる。その上書きを担うのがホワイトの役目だ」
 強い光と共にホワイトが変身を解く。不戦の意思表示というよりは、おそらく用が済んだのだろう。白い光は人型に変化し、その光が弱まるにつれ宿主がその姿を見せる。
 そうして現れた宿主の招待に、紅太が息を呑んだ。
〈あれは……っ!〉
 そこには無表情の良介が、白い光に支えられるようにして立っていた。
〈良介!!〉
「落ち着け、やめろ紅太!」
〈でも――〉
「今の良介に何を言っても無駄だ!!」
 レッドの体が一瞬駆けだしそうに動いたが、ソレーユが制したのだろう、その場に留まる。けれどけして剣を構えようとしないのは、果たしてレッドの意思なのか、あるいは紅太の意思なのか分からない。
 その様子を横目に、ルーナは静かに息を吸うと、ゆっくりと口を開いた。
「なんだかんだ言って、結局お前も良介の体を借りるんだな、ホワイト。こいつの記憶を覗いた時に、気が合うかもしれないとは思ったが」
徐々に弱くなっていく白い光の中で、人影は長い銀色の髪をなびかせ、赤く彩られた唇で弧を描く。
「上書きは下書きを覆い潰す作業だ。覆い潰し、白紙に戻す……忘却を担う」
 白い肌は相変わらず、こちらを見返すまなざしはかつての印象よりもずっと冷然として見えた。
「忘れ去られる人々の苦しみに耐えられずに、お前は行方をくらましたんだったな、ホワイト……シエル。いや――」
 ルーナの記憶に馴染んだ彼女の呼び名は、もう彼女を示すものではないのだ。
「――ブランシュ。良介の不幸はいじり甲斐があったろう?」
 カラーズ・ホワイト――ブランシュは微笑んだまま再び手に光を宿すと、かつての仲間に向かって照準を合わせた。



――藍川良介。
 母子家庭に育ち、五歳六ヵ月まで母親の虐待を受ける。その後、虐待が近隣住民の通報により発覚し、児童養護施設に入所。半年後に行方不明だった父親に引き取られ、以後は父親の家族の元で生活を送ることになる。
 しかし父親の家族の、虐待を受けた児童の心理的影響に対する理解は浅く、児童への対応としては過剰に厳しい躾・教育が行われていた模様。
 現在の年齢は十五歳、高校一年生。中学時代からの友人である亘紅太と共に、ベルト・ノート地球課人類史部隊サンカラーズへ、一時的に身体を提供している。