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マーカー戦隊 サンカラーズ

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【第六話 To. monochrome】


 柔らかくてあたたかい手が、こちらに向かって差し出される。

 鳥たちのさえずる声が聞こえてきて、良介は目を覚ました。
 起き抜けの思考はぼんやりしたまま動かない。
ただぬくもりが残っているような気がして、てのひら見つめた良介は首をかしげた。



「じゃ、いってきまーす!」
 一昨年の誕生日に姉からもらったマフラーを首に巻いて、紅太は家を出た。赤と緑と青でできたトリコロールカラーのそれは可愛いと言われることもあるけれど、色味の渋い大人っぽい雰囲気がカッコよくて、紅太は気に入っている。
 ソレーユが自分の体から出て行ってしばらく経つけれど、この日はことさら、なんだか静かすぎる気がして紅太は鼻をすすった。今の季節は寂しくていけない。
 お気に入りの特撮DVDは最後まで見終えてしまったし、なにより一緒に見る人がいないのはなんだかつまらなかった。それでも新シリーズを夜遅くまで見ていて寝坊してしまった。それにはもう、自分は夜早く寝られない、朝早く起きられない生き物なのだと紅太は思っている。こんな時間に家を出ていては、どうあがいても遅刻だ。
「戦えー、戦え、正義のためにー」
 見始めた新シリーズのテーマ曲を口ずさみながら、諦めた紅太は歩いて学校へ向かっていた。



「……で、遅刻か」
「はい……」
 本気で怒る良介は体育教師の怒号よりもよっぽど怖い。
暢気にも元気に明るく遅刻してきた紅太に、腕を組んだ良介は紅太を机の上に正座させた。もちろん長時間そうするつもりではないだろうけれど、それにしたって板の上での正座は足が痛い。
「最近遅刻してなかったのにな。何やってたんだ?」
「えっとぉ……し、宿題を……」
「へぇ? じゃ宿題は何で、どのページだった?」
「え」
 うっかりした反応をすれば、良介から音がするような勢いで睨まれる。
 宿題の指示は出されているのだから絶対にどこかで聞いたことがあるはずだと、紅太は必死で記憶を探った。それにしても教科から当てろとは、また難易度の高い問題を出すものだ。
「えーっと……リーディングの、百……十、三ページ?」
 なんとか搾り出した答えを言えば良介に思い切り溜息をつかれて、紅太はがっくりと肩を落とす。
「あの、藍川くん。もうそのくらいに……」
「清夏ちゃん!」
 見かねた清夏がなだめようと口を挟むが、良介は清夏まで鋭い目で睨んだ。
「ダメだ、関口。ここで甘やかすと、コイツはいつまで経っても成長しないんだぞ」
「あ……………………はい。ごめんなさい……」
援軍は気が弱かった。
 とはいえこれ以上こうしていても仕方がないのは目に見えているので、良介も紅太に机から降りるように言う。
「なんだかんだで、ソレーユはいつもちゃんとお前を起こして来てたんだよな……」
 言いながら、良介は溜息と共に頬杖をついた。
「うん。宿題もやれってうるさかったから、いつもちゃんと忘れなかったし」
「離れちまったのは残念だったな」
「いや、それはどーだろ?」
 紅太の体はなかなか快適だ。少し寂しい気がするけれど、なにより寝不足にならずに済む。
 相変わらずあの二人は紅太たちと一緒でなければ変身できないようだけれど、平時にはもうすっかり自分の体で生活している。屋敷に遊びに行けば、ソレーユはたいてい嬉々としてエプロン姿で料理や掃除にいそしんでいて、一方のルーナはずっと分厚い本を読んでいた。
「……お前が何度も誘惑に負けるのは、あのDVDデッキのせいか?」
 そう呟いた良介の言葉が、まるで死刑宣告のように紅太の耳に届く。
「そっ、それは! どうかそれだけは、それだけはお許しをぉお!!」
「知るか! お前がいい加減なことばっかしてるのが悪いんだだろーがっ!!」
「ふ、二人とも、もうちょっと静かに……!」
 大慌てで宥める清夏の声と入れ替わりになって、教室内の大騒ぎに気付いた一時限目の担当教師が、一体なにごとかと慌てて中を覗き込んできた。



 部屋の中はなんとも美味しそうないい匂いが漂い、音はぐつぐつと鍋が煮られる時の音、紙をめくる音とペンが紙の上を滑る音が聞こえるだけだった。
 しかししばらくすると紅太が唸り出し、清夏がその様子を心配そうに見る。
そしてそれに良介が思い切り机を叩くと、大きな音が鳴った。
「だって、良介!!」
「ふざけんな、まだ三十分だぞ!?」
「酷いよぉ!! 助けてディスプレイ教授!!」
 そう叫んだ名前は、昨日から見始めた新しい特撮シリーズに登場した司令官だった。
一体いつの間に知識を得たのか、その単語が出た途端に、キッチンから顔を出したソレーユが目を輝かせる。
「紅太、サンカラーズならいるぞ?」
「サンカラーズは宿題やってくれないじゃんかぁ!!」
「ディスプレイ教授だってやんねぇだろ……」
 そしてこれだけ騒いでもまるで反応せず本に目を通すルーナに、清夏が少し驚いた顔でその様子を見ていた。
 ソレーユとルーナが身を隠している屋敷には、テレビもDVDデッキもない。集中するにいい場所ではないかと良介が言い出し、学校帰りに三人で屋敷へ寄ったのだ。遅刻か、宿題忘れか、そのいずれでいいから紅太には直してほしいと、良介はけっこう切実に願っている。
 腹の足しにとなぜかおやつを用意してくれたソレーユに礼を言い、紅太はしくしく泣きながらおやつと一緒に出されたお茶を飲んだ。
「とにかく、さっさと片付けろ。暗くなるの早いんだぞ、あんまり長居はできないんだからな」
「――あれ?」
「あ?」
 不意に小さな声が聞こえて、全員の視線が声のした方へ集まる。
 視線の先では小さな子供が、ただでさえ大きい瞳をさらに大きくして、紅太たちを見ていた。
 思わず無言になってしまった紅太たちに、子供は叱られると思ったのか、慌てて頭を下げる。
「あ……ごめんなさい。ここ、誰も住んでないって……」
 はい本当はそうなんです、と答えそうになった紅太に、なぜかその気配を察したらしい良介が思い切り足を踏みつける。
 いきなり毛を逆立てた紅太に驚く子供に向かって、ソレーユはしゃがむと、子供に視線の高さを合わせた。
「いいんだよ。ぼく、よく来たね。お菓子は好きかい?」
 そう言って笑顔を見せたソレーユに、なぜか子供は安心したように笑うと、嬉しそうに頷いた。
 ソレーユがそのまま空いた椅子に座るよう促すと、子供は素直に空いた椅子に腰掛ける。そして出されたお茶とお菓子に手を伸ばし、机の上に広がった紅太たちの宿題に気付いて、不思議そうに首をかしげた。
「あの、ここは勉強塾ですか?」
 子供の問いに、目があった紅太が首を横に振る。その顔からは宿題をサボる恰好の口実が得られたことでつい笑顔があふれ、それに比例して良介の眉間の皺が深くなった。
「ううん、お兄ちゃんたちのお家だよ。君、お名前は? どうしてここに来たの?」
「清水正隆です。あの、ぼく、お母さんを探してて」
「なんだ、迷子か?」
 良介の問いに、違います、と正隆は首を振る。
「半年前、お母さんが急にいなくなっちゃったから。それでずっと探してるんです。でもお父さんはなにも教えてくれないし、もうやめろって言うし……」