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マーカー戦隊 サンカラーズ

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「……なぁ、良介ぇ……」
「なんだよ? ホームルーム始まってんだぞ、黙って前向いてろ」
「ちょっとだけだって! あのさ。清夏ちゃんが苛められるとか、なんで?」
 一応考えてみたのだけれど、紅太にはそれが分からない。
〈たしかに妙な話だな。清夏はただ気の優しい、普通のいい子じゃないか〉
「俺が知るかよ……」
 素直に同調するソレーユと、言葉は違うけれどどうやら同じことを考えているらしい良介に、紅太は首をかしげると再び机に頬をつけた。



 その次の休み時間。
当然だがあまり話したくなさそうな清夏を捕まえて、校舎の隅のあまり人が来ない場所へ引っ張り込む。清夏は言いにくそうにしていたけれど、場の勢いで喧嘩を買ってしまった良介に遠慮してか、そのうちに少しずつ話し始めた。
「昨年から、だったかな……クラスの女の子全員から無視されるようになっちゃって。理由は、よくわかんないんだけど」
 自分の沈んだ口調で空気が重くなったと思ったのか、清夏は努めてなんでもないような調子に声の高さを変えた。
「あのね、聞いたことない? こういうことって、順番に、皆に回ってくるの。誰でもいいんだよ、理由も……たぶん、ないんだと思う」
「理由がないって……」
「そうなる前はちゃんと友達もいたんだよ? けど、私の友達はみんな……あの子たちに取られちゃった」
 なんとか明るく話そうとしていた清夏だったけれど、努力の甲斐もなくそれはあまり長続きはしなかった。
 無理もないことだと、紅太は思う。
「……そんなこと言うからいけないのかな?」
 自分を責めるようなことばかり言う清夏が、なんだかとても可哀想に思える。しかし紅太は何と言えばいいのかまったくわからなくて、ただ困ったような顔をすることしかできなかった。
「清夏ちゃん……」
「ごめんね。こんな話、どうでもいいのに……」
「そんな……そんなこと、ないよ……」
 思いもよらない清夏の沈んだ様子に、声をかける助け舟がほしくて、紅太は良介を見る。
 しかし良介はしばらく考えるように腕を組んでいたが、何も言わなかった。そして清夏がもう話し終えたらしい空気にようやく口を開き、溜息をついて腕組みを解く。
「……悪い。余計な首突っ込んだな」
「良介……!?」
「今聞いたこと、ちゃんと忘れるわ」
〈そうだな〉
 良介とソレーユの意外な反応に、驚いた紅太は良介と清夏を交互に見る。
「……うん……」
「な……なんで……!!」
 しかも清夏の方もそれでいいらしい展開に、ついていけなくなって、紅太は無意識に首を横に振った。
「なんで!? そんな……そんな話なのか!? だって、そんなの変だろ!!」
「黙ってろよ。お前も俺も関係ねぇんだ」
「関係ないって……」
 どうして関係ないのだろう。だって、清夏が傷ついているのではないのか。それなのに、忘れるだなんて。良介はどうしてそんなことを言うのだろう。
 困惑がそのまま滲み出たらしい紅太の呟きに、清夏がいつもより明るく笑ってみせる。
「いいの。ありがとう、亘くん。気にさせちゃってごめんね」
「でも……っ!!」
 けれどどう見ても無理をしている清夏の笑顔に、紅太はどうしたらいいのか分からない。ただ悲しいような痛いような気分だけが込み上げて、紅太は唇を噛んだ。
 不意に無機質な電子音が聞こえて、紅太はなんだか悔しい気がして奥歯をかみ締める。
〈紅太、良介。指令が入った。ルーナが到着次第向かうぞ〉
「ああ」
 予想通りのソレーユの言葉が、なんだかひどく苛立たしかった。紅太は無意識に握った手をさらに強く握り締めると、なにか言いたくてやっと息を吸い込む。
「ソレーユ、お前もそんな……」
〈紅太〉
 そう呼びかけたソレーユの声は、いつもと同じ気軽な調子だ。
けれど不思議と、それを無視して話を続ける気にはなれなくて、紅太は口を閉じた。
〈目標はここから半径五十メートル以内の敷地にいる〉
 目標が、ここから半径五十メートル以内の敷地に――?
「そ…………………………れが何なの……?」
「校内にいるってことだよ、このバカ」
「え……げぇ!?」
 意外にも近すぎる目的地に、驚いて思わず潰れたような声が出る。しかも大げさに仰け反ってしまって、その反応に驚いたらしい清夏が心配そうに紅太の顔を見た。
「なに? どうしたの?」
 そう言う清夏の顔は、いつもと同じ、穏やかで優しい表情で、紅太は少しほっとする。
〈さらに言うなら、さっきの一団の中にいるらしい。紅太、成り行きによっては報復できるかもしれないぞ〉
 さらに好戦的な言葉を聞かされて、紅太は自分の口元がとても嫌な感じに曲がるのを、初めて自覚した。



 ソレーユに促され、ルーナと落ち合う予定らしい場所についた紅太と良介は、人影が見当たらずにきょろきょろとあたりを見回した。
ほとんど使われていない特別教室ばかりがある棟の、最上階の端。もちろん廊下に生徒の人影はなく、鍵がかかった特別教室のほかにはトイレ程度しかない。
「良介」
 背後から聞こえたルーナの声に振り返る。
「へ……ええええ!?」
するとルーナはしれっと女子トイレから姿を見せ、涼しい顔で二人を見る。
「おまっ……お前、どっから出てきてんだ!!」
「気にするな」
「気にするわ!!」
 思わず良介が突っ込むが、ルーナはすでに良介を見ていなかった。
〈意外と早かったな〉
「ああ。目標の確認は?」
〈これからだ〉
 淡々と状況の整理をするルーナとソレーユの声に、ふと閃いて紅太は口を開く。
「ルーナ!」
「なんだ?」
「あのさ、今回の敵、清夏ちゃんのことイジメてたヤツかもしれないって!」
 しかし紅太の言葉にも、ルーナは冷淡な表情を崩さずに紅太を見返した。
「それが?」
 耳に届いたルーナの返事が、なぜかうまく耳にから脳に溶け込まなくて、紅太は目を見開く。
「宿主の個人事情はノートと戦う時の参考情報として必要なだけだ。問題なのは、ノートの暴走に第三者が巻き込まれることだからな」
「でも、今回は清夏ちゃんの――」
「関係ない」
 呆然としたままの紅太に、ルーナはまるで関心を失ったように校舎の中を見回す。
そこへちょうど女子生徒のグループが通りかかったのを見つけ、ルーナが目を凝らしてそちらを見た。
〈いたか? ルーナ〉
「ああ、あの一団か……おかしいな。それらしい気配は……」
 紅太も良介も見覚えのある女子生徒たちに、顔をしかめていたルーナが不意に肩の力を抜いた。
 ルーナの視線の先には、良介と言い合いをしたグループの、リーダー格の女子生徒――ではなく。
「……あれか?」
 その隣でリーダーの女子生徒に付き添うように立つ、ショートカットの女子生徒がいた。



 去年から同じクラスになってしまった女子生徒は、素材から派手な外見と、やたらと高圧的な物言いに、とても成績がいいことが重なって、去年から誰も逆らえる人がいなかった。自分もその中の一人で、こうやって友達のような振りをして身を守るのが精一杯で。
「ホンット嫌な感じよね、関口さんて。なんなのよ、あの子」
「本当。なにアレ? 調子こいちゃってさー」
 一緒になって悪口を言う相手は、控えめに笑う、お菓子作りが好きな、一人の女子生徒。