マーカー戦隊 サンカラーズ
そしてしばらくの間燻るように震えたかと思うと、無数に分散し、飛び散っていった。
その光のうちの一つがブラックに吸収されたのを確認して、二人が変身を解く。
それぞれ赤と黒の光に全身を包み込まれ、やっと視界から光が消えたのを確認して、良介は清夏が隠れているはずの物陰へ向かって走り出した。
「おじさん!」
「……あ」
物陰を覗き込むと清夏がほっとした表情を浮かべていて、良介は地面に横たわった男の顔を見る。少し血色がよくなったようだ。
それに少し安心して、良介は清夏に視線を戻す。
「関口、おじさんは……?」
「大丈夫、寝てるだけみたい」
そう言って微笑んだ清夏は、良介とその後に追いついてきた紅太の姿を見て、やっと安心したらしい。小さな溜息をつくと、両肩から力を抜いた。
「よかった、二人とも。無事だったんだね」
「うん。清夏ちゃんは大丈夫? 怪我とか、ない?」
「うん」
紅太の言葉にそう返事をしたものの、清夏は少し迷ったように目を伏せると、ゆっくりした動作で、眠ったままの男の顔を見下ろした。
「関口……?」
「おじさん、ね……」
そしていつの間に置かれたのか、傍らの赤いアコーディオンに目をやり、軽く息を吸う。
「……おじさん、弾かなくちゃいけないんだって。奥さんに買ってもらった楽器を弾かなかったら、それは奥さんを裏切ることになるんだって……そう、言ってた」
眠る男の顔は、ノートを倒す前のそれとは違う、穏やかな表情をしている。
「そ……っか……」
そして聞かされた話に、何を言えばいいのか分からなくなって、良介はそのまま口を閉じた。
――と、清夏が申し訳なさそうに口を開く。
「……ところで、あの……」
「え?」
「そちらの方が、ソレーユさん? それとも、ルーナさんですか?」
そして続けられた問いに、良介は眉根を寄せた。ルーナもソレーユも自分たちの体へ入り込んだ存在であって、変身が解かれた今、彼らの存在を感知させるものは何もないはずだ。
しかし良介の困惑を感じ取ったのか、恐る恐るといった風に清夏が人差し指を指す。
指された先を視線で追うと、まず何もかもが起こる前の状態に戻った公園の、古いベンチが見えた。続いて植えられた樹木。
その後、同じように清夏の指さす方を見ている紅太の姿を見つけて。そしてその先には、誰もいないはずだった。
「え……?」
いないはずだった、のに。
「マジ……!?」
〈なんで、お前だけ……!!〉
視線の先では、なぜか紅太によく似た青年が立っていて、その既視感に、良介の頭の中をさまざまな記憶が駆け巡る。
そして記憶の中から大きく取り上げられたのは、あの記憶。学校前にある荒地に建った屋敷の中、さんざんに荒れた部屋に、倒れていた二人の男。それを見下ろすように立った、真っ白な女。
「ルーナだ。よろしく、清夏」
あの時良介が助け起こした男が、今まさに目の前にいる。
「……ぇぇえええええええええええええええええええっ!?!?!?」
良介、紅太、そしてソレーユ。
三者三様の悲鳴に負けじと、鳴き声をかき消された蝉たちが、再び大きな音で大合唱を始めた。
左手で蛇腹を動かしながら、指に馴染んだ鍵盤を弾く。そうすると歌いだす楽器の音を聞くだけで、いつだってとてもいい気分になれた。
それはなかなか不思議なことではあったけれど、考えたところで理由なんて見つからないなんてことは、これまでずっと考えていたことだからすでによく知っている。
青空の下で弾いていると、たまにお客さん聞きに来てくれて、たまにはリクエストに答えて。
「お父さーん! お疲れさまーっ!」
そうしている内に聞こえてきた声が、アコーディオンの音と重なる。そしてそれはこれ以上ないほどの豊かで幸せな響きを作りだすのだ。
それにこれ以上内ほどの幸福を感じて、男はいつも返事の代わりにもう一曲を奏でた。
作品名:マーカー戦隊 サンカラーズ 作家名:葵悠希