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マーカー戦隊 サンカラーズ

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 ブラックは少しレッドを振り返るような仕草をしたが、何も言わずにそのまま女に向かって構えを取った。
 それに続くのは、本当に焦ったのだろう紅太の大きな溜息に、苛立たしげな良介の小さな舌打ち。
〈よ……よかったぁ……〉
〈……あとで覚えてろよ、二人とも〉
 明らかに怒りを滲ませた良介の声に、レッドは慌てたように手を振ってブラックを見る。
「そんな、間に合ったんだから大目に見てくれよ。ブラックもなんとか言ってくれ」
「知らん」
 良介への取り成しはにべもなく却下され、レッドは溜息と共に肩を落とす。とはいえ、それなりに清夏の同行を受け入れたことに対する負い目はあるらしく、理不尽をこうむったという雰囲気の反応ではなかった。
 そして彼もレッドと同じように感じているのだろう、ブラックは清夏の前に立つと、怪我はないらしい清夏の様子を確かめて、小さく頷いた。
「巻き込んで悪かったな、清夏。この男の体は任せた。少し堪えていてくれ」
 そのまま、思いもよらない展開に呆けたままの清夏へ向かい、男の体を預ける。少し乱暴な動きだったけれど、男は意識を失ったまま少しも目を覚ます気配がなかった。
 とはいえレッドとブラックが何を言おうと、清夏には何もかも訳がわからないままだ。その上突然見たこともない特撮ヒーローもどきにそんなことを言われ、混乱しないはずがない。
「誰……?」
清夏は困惑を隠すこともなく、ブラックとレッドを交互に見る。
 そしてそんな清夏の反応に、それももっともだなと、レッドが親指で自分を指さした。
「俺は紅太に、こっちは良介に体を借りてる、ベルト・ノート地球課人類史部隊サンカラーズ。カラーズ・レッドのソレーユだ」
「同じく、カラーズ・ブラック。ルーナ」
 それに続いたブラックが名乗るのを聞いて、清夏は混乱した頭をそれでもなんとか整理しようと必死になる。
「藍川くんと亘くんの、体……?」
 もちろん突然そんなことを言われたところで、安易に受け入れることもなどできるはずがない。清夏は眉間に皺を寄せ、懸命に二人の様子を観察する。肩に乗っていたのにじりじりとずり落ちる男の体を支え直し、それを手伝おうとしてくれたらしいブラックの仕草に既視感を覚えて、清夏はさらに困惑する。
 その一方で、宿主たちはもっと別のことで、ちょっとした混乱状態に陥っていた。
〈お前ら、そんなきちんと系統立ってそうな組織の人間だったのか……!?〉
「一応な。俺たちはブランシュの捕縛と、ノートの暴走を止めることを目的として派遣されたんだ。ブランシュの情報に関しては、本部から随時指令として入ってくる」
〈でも、今までは? 結構、行き当たりばったりだったような……〉
「しょうがないだろ、通信機が壊れてたんだよ」
 わりとどうでもよさそうな話で盛り上がる相手に、女は髪を逆立たせ怒りをあらわにした。
「何をごちゃごちゃと……!」
「っと。そうでした。いくぞ、ブラック!」
「ああ」
 女はそのうめき声と共にこちらへ向かってくる。それに対し、レッドとブラックは左右に分かれると、武器を構えて、女を挟み込むように走り出した。
 しかし女は白く光るとみるみるうちに姿を変えて、球体がいくつも繋がったような奇妙な形を取る。
 駆け込んでくる二人に、ノートは両腕を開いて全身を震わせたかと思うと、それによって増幅させた空気圧でレッドとブラックを押し返すように吹っ飛ばした。
「うわああ!! ……くっ、くっそぉ!」
 なんとかガードしたおかげで切り裂かれるような衝撃は受けなかったものの、あまりにも簡単に弾かれたことが悔しいのか、レッドが歯を食いしばる。
「なるほど、音源の可視化とはな。あの男らしい形態のノートだ」
〈でも、実態がないのにどうやって倒すんだよ!?〉
 その一方で相変わらず冷静に呟くブラックに、焦った紅太が思わず叫んだ。話している間にもノートの攻撃は止まず、絶え間なく続く衝撃波に、このままではそれを避けるだけで精一杯になることが目に見えている。
 しかしブラックは余裕の仕草で顎に手を当てると、簡単な問題を解くような調子で、両手に無数の光のつぶてを浮かべた。
「衝撃波は音と同じだ。空気を波立たせることで、相手にその反動をぶつける。言い換えれば仲介が、空気の役割を担っているものなくなれば、それがどれだけ振動しようと反動は伝導しない」
〈だから、どうしろって!!〉
「俺が真空状態を作る」
 言うなりブラックは両手に浮かべていたつぶてを倍に増やすと、それをマシンガンのような勢いでノートに向かって撃ち始めた。
 弾幕は、最初は敵の衝撃波に防がれてノートに届かず弾け飛んでいたものの、しばらくするとその衝撃波を裂くようにして、割れ目の隙間から徐々にノートに届き始める。
「なんだと……っ!?」
 そして敵の元まで届いた弾は、ノートに触れた途端に姿を変えて液体のようになり、徐々に増えていくそれでノートの体全体を覆っていった。
「チャンスはこれが破られた一瞬だ。レッド、外すなよ」
「わかった!」
 休まず撃ち続けながら言うブラックに、刀を構えたレッドが返事をして、それきり口を閉ざす。



 まずありえないその光景を、混乱した頭のまま、それでも目を逸らさず見つめる。
しばらくそうしていた清夏は自分の役割を思い出すと、慌てて物陰の奥へ横たえた男の様子をうかがった。閉じられた瞼が震え、今にも目を覚ましそうな気配に、少しだけほっとして肩の力を抜く。
「う……」
「おじさん! 大丈夫ですか?」
「お嬢さん……楽器は……? 私の、楽器……」
 男の言葉に、清夏は目を見開いた。
 しかし男は清夏の衝撃に気付いた風もなく、気が付いたばかりでぼんやりした眼差しのまま、宙に向かってゆっくりと手を伸ばす。
「あれは、妻が買ってくれたんです。私が弾くのをやめてしまったら、私は彼女を裏切ったことになってしまう。どんなに弾くことが辛くても、私は、弾かなければ……」
「おじさん……」
 無理をしていたのだろう男は、堪えられなくなったのか、わずかに開いていた目をゆっくりと閉じる。
「楽器を……」
 そうして再び気を失う直前に、伸ばされていた男の手は、しっかりとてのひらを握っていた。



 当たったつぶてがノートの体を包み込み、それを内部から壊そうとしているのだろう、青黒い光に覆われたノートのシルエットが、響くように振動する。
 レッドは剣を構えた状態を保って、身動ぎもせず標的の変化を見つめていた。
〈……レッド、大丈夫なのか?〉
「ああ」
 そう当たり前のように答えたルーナに倣い、良介も、わずかな不安を抱きながらとはいえ、それ以上何も言わずにレッドの様子を見ていた。
 ノートが起こす振動が強くなり、コーディングにわずかなひびが入る。次第にそれから欠片のようなものがこぼれ始め、細かなものだったひびが大きな亀裂に変わった。
 咆哮のような大きな叫び声と共にコーティングは弾けとび、その中から再びノートが姿を現す。
 しかしそれと同じ瞬間に、レッドの剣が目標を突き刺した。
姿を保っていられなくなり、白い光に覆われたノートは、崩れた体を空へ舞い上がらせる。