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マーカー戦隊 サンカラーズ

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「え?」
 紅太の言葉に、清夏も耳を澄ます。
 しかし何も聞こえなかったらしく、不思議そうに辺りを見回した。
「……ううん、何にも聞こえないけど……」
〈良介!〉
「うおっ……」
「えっ!?」
 そして油断していたところへいきなりかけられた声に良介が驚き、それにまた清夏が驚きの声をあげる。
〈いちいち驚くな〉
 いちいち驚かせるな、と良介は思う。
〈指令が入った。出たぞ、ノートだ〉
 しかし、良介の悪態もどこ吹く風。ルーナはさっさと自分の用件を告げると、また良介には分からないところへ引っ込んでしまった。
「どうしたの? 二人とも……」
 なにやら挙動不審の二人に、清夏が困ったような顔で良介と紅太を見比べる。
 しかし見比べられた二人の方は、まともに弁明できるだけの材料もなく、ただ何もない振りをするだけで精一杯だ。
〈説明は後だ。出現箇所はここから直線距離七百メートル……近いな〉
 しかし何を思ったか、ソレーユからの情報に紅太ははっと息を呑むと、慌てた様子で席を立つ。
「清夏ちゃん!」
 そしてそのまま清夏の方へ身を乗り出すと、懇願するような表情で口を開いた。
「ごめん! 急だけど、ちょっと俺たちと来て!!」
「え?」
「おい、紅太!?」
「だっておいてけないだろ!?」
 突然の提案に良介すらついていけない状態で、けれどこうするしかないと決めてしまった様子で、紅太が清夏を促す。その一方で良介は、わざわざ清夏を危険な場所に連れ出す意味を考えた。しかし、考えたところでもちろん、そんなことにメリットなど見つけられやしない。
 けれど敵の位置が近いことを思い出すと、置いていけないと主張する紅太の言い分ももっともだという気がする。
 こうなったら専門家に判断を仰ごうと、良介は考えることを放棄して、教材を仕舞い自分も動き出す準備を始めた。
〈……仕方ないな。とにかく詳しい話は向かいながらする。行くぞ〉
 どうやら清夏の同行を認めたらしいルーナの言葉に、良介は一応、大丈夫なのかと心の中で呟いて確認をしてみる。
〈やむを得ん。目に届かないところで何かあるよりはマシだ〉
 しかしこれは、ルーナたちにとっても判断に困る問題だったらしい。そう言った溜息混じりの声に、それ以上追求する気にもなれず良介は諦めの溜息をついた。
「ったく、わかったよ……」
「え……え……?」
「清夏ちゃん、こっち!」
 そのまま紅太に手を取られた清夏の困惑した様子に、彼女の不運を思って良介はそっと黙祷を捧げた。



 夏期講習をエスケープする格好で校舎を飛び出し、ルーナの声に導かれるまま清夏を自転車の後ろに乗せた良介は、違和感に眉根を寄せた。
 真夏のこの炎天下だ。歩行者が少ないのは頷ける。けれど何か、それだけではないような――
「ね、藍川くん。音が……」
 不安げな清夏の呟きに、良介は思い至って思わず唾を飲み込んだ。
「これ、人がいないんじゃないか……?」
 口に出すと改めて感じる強烈な違和感に、良介の体に緊張が走る。
〈こっちだ!〉
 先導する紅太から感じるソレーユの気配に促され、言われるままに道を曲がる。見覚えのあるこの道は、今日も話に上った公園のそばの道だ。
 そしてその道を少し横に逸れたところで、見覚えのある人影を見つけて、良介はブレーキをかけた。
「ちょっ……!!」
「良介!?」
「おじさん、どうしたんですか!? おじさん!!」
 慌てて駆け寄り、必死に声をかけて。それでようやく、相手は良介の存在に気付いたらしい。
アコーディオン奏者の男は体中から力が抜けたような表情をしていたが、駆け寄ってきた良介たちの姿を見て、表情をかすかに笑みの形に歪めた。
「……ああ。君たちか」
「よかった、無事だったんですね!」
 はっきりとした意識はあるらしい様子に、強張っていた良介の肩から力が抜ける。
「おじさん、ここは、ちょっとその……今から危なくなるんです! だから早く――」
「利江子が……」
 しかし男は良介の言葉などまるで聞こえていないらしく、じっと見開いた目で自分の両手を見下ろした。
「え?」
「……妻がね、倒れたんだ」
 そう呟いた声はひどく掠れていて、それがそのまま男の憔悴がどれほどのものかを示しているように思える。
「この間、君たちに会った日の帰りに。医者に言わせれば、ずっと前から体を悪くしていたらしい。知らなかったんですか、って聞かれたよ」
 そう続けた声が自嘲するような声音に変わり、捻れて。
 大きく溜息をつくように、男が息を吸う。そうして発せられた声は、その次の言葉を紡ぐと時にはもう、涙が滲んでいるように聞こえた。
「あの日……あの時ねぇ、妻が目の前で倒れて。私は何をしたと思う? 目の前で、倒れるのがわかっていたのに、受け止められなかった。持っていた楽器をね、放り出せなかったんだ……っ!!」
 男は両手で顔を覆うと、息を呑んで歯を食いしばった。
「おじさん……でも、それは――」
「最低だよ! こんな年になっても、みっともなく夢にしがみついて! そんな私を、あんなに大切に想ってくれた妻に対して、私は……私は、なんてことを……!!」
 搾り出すような男の声に、何と言ったらいいのか分からず三人とも黙り込んだ。
「私は何を目指していたんだろう、何を求めていたんだろう。もうそれが何だったのかわからないんだ。なのに……私はまだ、それを捨てられずにいる……!!」
 唐突に、男が意識を失う。
慌てて男を支え、良介は顔色からその憔悴を伺おうとした。
不意に自分の視界の淵に、見慣れない靴のつま先が入り込んで、良介は顔を上げる。
 そして上げた視線の先にいた女と目が合った瞬間、言い表しようのない悪寒が背筋を襲って、良介は目を見開いた。
 長い黒髪を背中に流し、赤い派手なワンピースを着た、若い女。
〈――来たぞ〉
 不自然にこちらを見つめ続ける女の様子に、なんだか嫌な予感しかしなくなってしまい、良介は視線を逸らすことができない。
「おいルーナ。あの人、何……?」
〈ノートだ。おそらく、この男の夢の記憶を消しに現れた〉
 女はゆっくりした動作で三人を見回すと、おもむろに口を開いた。
「……あなたの一番大切な記憶は、何?」
 そして女の視線の先にはあまりの迫力に動けないでいる清夏の姿があって、良介は息を呑む。
「え……?」
 呆然としたまま、清夏は動かない。
 逃げろと叫ぼうにも、すでに良介の体は自分の意思で思うように動かなくなっていた。
 ずっと無表情だった女の顔が、ひどく美しい笑みの形を作る。
「清夏ちゃん!!」
そして笑んだまま口を開くと、勢いよく清夏に向かって突っ込んできた。
「教えて! あなたの一番大切な夢を!!」
「な――」
 その瞬間、良介と紅太の体が光ったかと思うと形を変え、一瞬にしてレッドとブラックに入れ替わる。そのままレッドが女の前に立ち剣で動きを止めると、真横からブラックが女の方を蹴り飛ばした。
 レッドの剣に気を捉えていたせいで、まともに攻撃を受けた女が弾き飛ばされた。その攻撃に、女は髪を乱し、眦を吊り上げてこちらを睨む。
「貴様ら……っ!!」
「……インテグレイション完了。セーフだよな? ブラック」