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マーカー戦隊 サンカラーズ

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 なぜだか無性に離れがたい気がして、良介は言った。
「待ってるよ」
 答えた男は目もとの笑い皺を一層深くして、良介にそう答える。
 傾いた夏の日差しは、もうずいぶんと涼しくなっていた。



 夏休みは長い。
 ついでに日照時間も、夏は長い。
 この日も学校で講習があり、講義を終えた三人は並んで帰途についていた。
「溶ける……」
 言葉の通り気力を溶かしきってしまった表情で隣を歩く紅太に、良介は額に血管を浮き上がらせる。
「溶けるぅ……暑いよぉ……暑さで溶けるよぉ……助けてトライセコー……」
 そのうえ泣き言まで入ってきて、気温の上昇と共に良介のストレスゲージが着々と上がっていった。普段からわりとゲージの上限を突破して怒鳴ることは多いけれど、この調子ではいつもよりずっと早く臨界点を突破しそうだ。
「うるせぇ。暑いって言うな、余計暑くなる」
「でもぉー……」
「うるせぇえ!!」
「ああぁ……あっ、ほら二人とも! コンビニがあるよ、あそこ! アイス買ってこうよ!!」
 そして暑さにやられて気が立った二人をなだめようと、清夏が必死に話題を逸らしていた。

 真っ青なソーダのシャーベットアイスを咥えながら、紅太は恍惚とした表情を浮かべた。
「んまーいっ! ……ああ、生き返る……!!」
 そしてその横では、良介がコーヒー味のアイスを開封しながら溜息をつく。
「ったく……悪ぃな、関口。付き合わせちまって」
 そんな良介の言葉に、すでにバニラアイスを食べ始めていた清夏は笑うと、気にするなと首を振って見せた。
「ううん、私も食べたかったし。ホントに暑いもんね。熱射病になっちゃいそう」
清夏だって暑いと感じているはずなのに、どうしてこんなに心が広くいられるのだろうと、良介は思う。
しかし紅太は何も感じていないようで、清夏の優しさに感動するでもなく、がりがりとアイスの棒を齧っていた――その程度のことに本気で感動し、一方で何も感じ入っていない紅太に苛立っている良介は、この暑さに相当参っていると見て間違いない。
「本当だよー……ああもう。早く冬にならないかなー……」
「なったらなったで、今度は寒いの凍るのって大騒ぎするくせに。何言ってんだ」
 やっと復活したらしい紅太の言葉に、未だ機嫌が直っていないらしい良介が、何を思い出しているのか忌々しげに呟いた。
「そんなことねーよ! 俺、冬好きだもん!」
「ハッ! ウソつけよ。毎年文句ブチブチ言ってんのはどこの誰だ? あ?」
「言ってねぇよ!」
「言ってる!」
「言ってないって!!」
「言ってるっつーの!!」
「ふ、二人とも落ち着いて……」
 そしてそれをなだめるのは、やっぱり清夏の役目だったりするわけで。
〈お前たち、この炎天下で喧嘩とは余裕だな〉
〈なんでもいいけど、清夏だけは倒れさすんじゃないぞ?〉
 不意に聞こえてきた居候たちの声。そのまったくもって真っ当な言葉に、ギリギリと睨み合っていた良介と紅太は動きを止め、思わず清夏を見た。
 二人を止めようとしていた清夏は――季節のせいだが――額に玉の汗を浮かべており、また――やはりこれも季節のせいだが――真っ赤な顔をしている。
「……え? なに?」
「いや……」
「ごめん……」
 そのなんだか痛ましくも見える様子に、妙に罪悪感にかられて二人はお互いから目を逸らした。
 相変わらずの暑い日々だ。夏バテのように重い体を引きずってよく参加したと、自分たちでも思う。なにせこの夏期講習は自由参加。午前中の辛い勉強を耐え抜いたのだから、多少気を抜いたところで責められる謂れもない。
 しばらくそうやって三人はアイスを食べながら涼んでいたが、不意に道路に車の行き来が途絶えた瞬間、聞きなれない音の流れが聞こえてきて、そろって顔を上げた。
「ん? 何の音だろ?」
「なんだろう……ハーモニカ? 誰か弾いてるのかな?」
 不思議そうな紅太と清夏を尻目に、顔を上げてここが先日の公園だと気付いた良介は、口には出さないまま先日のアコーディン奏者の顔を思い出す。とても穏やかな空気の男だったけれど、今日も今日とて彼は頑張っているらしい。
そう思うと関係のない良介までなんだか誇らしい気分になって、気分よくその旋律に耳を傾ける。
 と、いきなり不穏な音が聞こえてきて、良介は動きを止めた。
〈ん?〉
「なんだ? 今、ガシャッて……」
 この暑い夏の日中だ。学校を行き来するだけで汗だくになるような時分に、そういえば男はあの日も一日中ずっと外にいたのだと思い出す。
〈……おい、良介〉
「あっ、藍川くん!?」
 わずかに嫌な予感を滲ませたルーナの声に、一気に不安を掻き立てられた良介は、物も言わず一直線に走り出した。

 大慌てで良介が前回の場所に駆け込む。すると嫌な予想は当たるもので、良介の予想通りこの前のアコーディオン奏者が目を回して倒れているのを見つけた。
「お、おじさん!!」
 抱き起こして頬を叩いてみるが、まるで意識を戻しそうにない様子に、こちらの顔が青くなる。
 まさか最悪の事態になるのでは、という妄想が一瞬脳裏を駆け巡ったが、大慌てでそれを振り払うと、良介は、とにかくなんとか目を覚ましてくれとばかりに男の体を揺さぶった。
「おじさん! おじさん!!」
「……あれ、君は……この間の……?」
「はい! 大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」
 やっと目を覚ましてくれた男に、安堵して良介の肩から力が抜ける。
「良介ぇ、どうし……うおっ!?」
「藍川くん、どう……きゃあっ!!」
「二人ともこっちだ!」
 そこへ暢気な友人たちの声が聞こえてきて、良介は大声で二人を呼んだ。
「日陰に運ぶぞ。紅太、そっち持て。関口はさっきのコンビニで、スポーツドリンク買ってきて!」
「お、おお!」
「うん、分かった!!」
 一目見ておおよその状態は察したのだろう、二人は余分な口を挟むことなく、良介と一緒に大慌てで男の介抱の準備に向かった。



 やっと意識がはっきりしたらしいアコーディオン奏者が、清夏の買ってきたスポーツドリンクを口に含む。
「ふー……いや、助かったよ。面目ない」
 そして溜息をつくと、とても申し訳なさそうに頭を下げた。たしかに三人とも、本来なら必要のないことで焦らされたりはしたが、それ以上に男が無事だったことに安堵してしまい、不満どころではない。
「いや、それはいいんですけど……大丈夫ですか?」
「ああ、だいぶいいよ」
 まだ少し青白い顔をしているものの、やっと見られた男の笑みに、良介はほっとして溜息をついた。
「なぁおじさん、これ何?」
「?何ですか?!」
 しかし紅太は相変わらずマイペースに楽器への興味を示し始めて、苛立ちも手伝った良介の注意にも無駄に力が入る。
「ってー……これ、何デスカ?」
 叱られてむくれた紅太に、男は明るく笑った。
「あはは。これはね、アコーディオンだよ。見たことはないかな?」
「へーこれが……すごいなぁ。本物見たの初めてだ」
 そう言う紅太にとって、アコーディオンは本当に初めてお目にかかる楽器らしい。紅太は男に許可を取ると、ぺたぺたとそれに触れ、ひっくり返したり、鍵盤を押したりと研究に余念がなかった。