表と裏の狭間には 最終話―戻れない日常(後編)―
警視総監(確か、名前は野々宮とか言ったか?)が入場すると同時に、激しいフラッシュが焚かれる。
そのまま警視総監が席に着き、会見が始まる。
………って、何の会見だ?
『えー………皆さん静粛に!これより記者会見を始めます!』
『総監!現在の状況はどうなっているのですか!?』
『警察は動かないんですか!?』
『既に負傷者も出ているんですよ!?』
……なんか物騒な話題だな。ひょっとして爆発の話かな?
『えー、順を追って説明します!まず、銃声が聞こえるという通報が多数寄せられている件ですが!』
……銃声!?
『まず、繰り返し注意しますが、これらの音が聞こえた場合、その場所には決して近づかないで下さい!銃声、爆発音が聞こえたら即座に離れ、警察に通報してください!また、これらの通報に対する警察の対応ですが――』
なんだこれ?
ボクの知らない間に、街はどうなっている?
いや、街じゃなく、全国規模で起こっているのか?
『現在、政府及び自衛隊のほうと対応を調整中です!今回の件は全国規模ということもあり、警察だけでは人員が不足しています!また、事件の内容からしても、容疑者たちの装備も警察より強力だと覗えます。また、自衛隊を動かすためには政府との調整が不可欠であり、今すぐに出動するということは出来ません!くれぐれも危険な場所には近づかないようにお願いします!!』
『……えー、では、本日の事件をまとめてみましょう。』
そこまで警視総監が話したところで、映像がスタジオに切り替わった。
スタジオには大きなフリップがあり、そこに事件の概要が書かれている。
『えー、まず、本日朝7時17分頃、千葉県勝浦市の廃工場にて、爆発音があったことが確認されました。それを皮切りに、関東各地の廃工場や廃屋などで、爆発が発生、また、住民からの情報提供で、日本各地にて銃声が聞こえるなどといったことが判明します。以降、警察への取材を繰り返しておりますが、九時現在、先ほどの記者会見のような様子で警察が出動する気配はありません。また、専門科の間では同時多発テロではないかとの意見もあり、これからの情報に最大限注意する必要が――』
……どういうこと?
日本で、今、何が起こっている?
そして、紫苑は、ゆりたちは、その渦中にいるのか?
午前10時を過ぎた頃には、関東各地に散っていた敵部隊もこの拠点に集結し、次第にあたしたちは劣勢に追い込まれた。
エリア2をも放棄し、部隊を交代させた後、帰還した輝と耀、それに紫苑と煌を支部長室に残し、あたしは再び、情報室を訪れた。
「……どう?何か分かった?」
「……特には。」
「どうでもいい情報なら飛び交ってるんだけどねぇー。」
「電波の逆探は?」
「錯綜しすぎて無理です。」
「チッ………。」
あたしは、東京の地図を広げる。
そこには、無数の×印が書かれている。
全て、あたしが調査した結果だ。
都内のそれっぽい場所は、洗いざらい調査した。
……本当に、どういうことだ?
「……ゆり。」
「何よ?」
「……聞いて。」
礼慈があたしにヘッドフォンを渡す。
ノイズに混じって、会話が聞こえてくる。
『………そっちはどう?』
『はっ。こちらは順調でございます。』
『そう。じゃあ、誰か適当な指揮官を一人、こっちに戻して。残りの部隊も出すから。』
『はっ!了解しました!』
『あと、関東近辺の司令官に連絡。出航はヒトハチサンマル。それまでに乗船するように。』
『了解しました!』
「……………。」
待て。
「……ありがとう。」
今の話を総合すると、どういうことになる?
出航?乗船?
………船?
まさか、連中は本拠地を船に置いている?
そうか、船なら。
地上を探しても見つからないわけだ。
何せ、敵は海の上にいるのだから。
もしも連中が、海自のどこかの人脈を掴んでいるのなら、その工場を使えるだろうし……。
だとすれば、海自の上層部から圧力をかければ、詳しい場所を特定できるか……?
いや待て。
海自の幕僚長は、陸自の幕僚長と仲が悪かったはず。
そのせいか、アークは海自の協力は得られなかったのだったか。
まあ、海はほとんど関係ないから、こっちでも重視していなかったけど。
もしもその繋がりで、ノヴァが海自を掌握しているとしたら。
「あんたたち、『どうでもいい情報』の中に、船に関する情報はなかった?船の所在とか、そういうの。」
ダメ元で聞いてみたけど、結構な反響があった。
「……ちょっと待って。今まとめる。」
「あー、こっちでもまとめてみる。」
「今リストを作ります。少々お待ちを。」
そのまま待っていると、程なくして、船に関する通信のリストが上がってきた。
「…………!」
これなら、行けるかも…………!
「礼慈、理子、支部長室へ。始めるわよ。本題を。」
「……了解。」
「了解っと。」
その時、警視総監の野々宮は電話を受けた。
「やあ。遅いよ。」
『悪いわね。待たせて。』
「おかげで誰も動けなかったからね。皆大混乱だよ。」
『それは悪かったわね。今からそっちにデータを送るわ。』
「ああ。…もう動いていい?」
『……お願いするわ。全力で頼むわよ。じゃ。』
そのまま、相手は電話を切ろうとする。
が、野々宮は呼び止めた。
「ああ、ちょっと待ちなさい。」
『……何よ?』
「どこに行くのか、きちんと言ってくれないか?」
『………分かったわよ。』
「言っておくけど、嘘はダメだよ。もしガセ情報だったら、君との約束も保護にする覚悟があるよ。」
『………分かったわよ。』
電話の相手が告げたのは、東京湾のとある埠頭である。
せいかくには、そこにある一隻の船だ。
海自の所有している船だが、何に使うのか名言されていなかったものだ。
その船は客船そのもので、海自が所有しているのは明らかに不自然だったのだが――。
「そうか。頑張れよ。」
『ええ。そっちもね。』
電話は切れた。
そのまま、関係各所にメールを打つ。
これで、全員が動き出すはずだ。
そして、そのまま、陸自幕僚長の神野へ電話をする。
追加のお願いをするためだ。
「ああ。神野君?例のアレ、お願いしていい?」
『アレ……特殊部隊、ですか?』
「うん。」
『確か、彼らの確保、でしたか?』
「そうそう。場所は――」
そう言って野々宮が告げたのは、東京湾のとある埠頭である。
せいかくには、そこにある一隻の船だ。
海自の所有している船だが、何に使うのか名言されていなかったものだ。
『……あの船ですか。』
「うん。じゃ、お願いね。」
『はっ。』
そのまま電話を終え、携帯を閉じる。
他に誰もいない部屋で、野々宮は一人呟く。
「……やれやれ。本当に手間のかかる子供たちだよ。」
午後三時。
あたしたち楓班は、アーク関東支部の指揮権を前原班(関東支部第二位の実力を持つ班だ)に引渡し、極秘任務と称して拠点を離脱した。
……どうやって脱出したかって?それは企業秘密よ。
まあ、うちの拠点は、地下街の真上にあるってことだけは言っとくわ。
「………で?今どこに向かってるんだよ?」
「ああ。敵の本拠地よ。」
煌が運転する車(勿論無免許。つまり違法)の中で、俺は助手席に座っているゆりに尋ねた。
返ってきた答えは、些か物騒なものだったが。
作品名:表と裏の狭間には 最終話―戻れない日常(後編)― 作家名:零崎