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表と裏の狭間には 最終話―戻れない日常(後編)―

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「本拠地?場所が分かったのか?」
「分かったから移動してるのよ。」
「で?それはどこなんだ?」
「ああ。海よ。」
「海?」
「敵の本拠地は、船にあるのよ。」
「………は?」

「…あれ?紫苑、そのコートは………。」
「あ?お前が『私服で行け』っつったんだろ?」
「いや、そうじゃなくて。見たことないわね。」
「ああ、そういうことか。」
まあ、普段は着ていなかったからな。
「それ、妹君とのデートの時にだけ着ていたコートっすよね?」
「うん。街で見たことあるの。」
「えっ嘘!?それマジ!?」
「……マジっぽい。」
「ほー。愛しい姫君のデートの時だけ着ていたコート、ねぇ。」
……こいつら嫌だ。
「………そう。」
何かを察したらしいが、何も言わないゆりだけが救いだった。

「………煌。止めて。」
「………?ああ。」
突然、車が道端に停車した。
そこは、都内のある駅前だった。
「紫苑。」
「何?」
「降りなさい。」
………は?
「降りなさいって………。どういう?」
何かの作戦の一環か?
そう思って訊いた。
「何かの作戦か?」
「いいえ。違うわ。」
「じゃあどうして。」
「あなたはここで手を引きなさい。」
…………一瞬、言われたことの意味が分からなかった。
そして、理解した瞬間、俺は怒鳴っていた。
「おい、どういうことだよ!?手を引けってのはどういう意味だよゆり!?」
「あなたはここで家に帰るべきだ、そう言っているのよ。」
「だから、どうしてそんな事を言うんだよ!?」
突然どうしたってんだ!
何をトチ狂ってそんな!
「紫苑。」
すると、そこに煌の声が割って入った。
「お前のことだけじゃない。ゆりは、雫ちゃんと蓮華のことを気遣ってるんだ。」
「………そうっすよ。紫苑が死ぬようなことがあったら、あの二人がどれだけ悲しむと思ってるんすか。」
煌の声に、輝の声が続く。
「……あなたは、あなたの帰りを待つ人のことをもっと顧みるべき。」
「そうだよ!大切な人がいなくなった辛さっての、紫苑なら分かるでしょ!」
「雫ちゃんや蓮華のためにも、紫苑は戻るべきなの。」
「……………うるせぇ。」
全員からよってたかって、『帰れ』『帰れ』と言われる。
「紫苑。」
また、ゆりが話しかけてくる。
「残される側のことも少しは考えなさい。あの二人は、あんたがいなくなったら、これ以上ないほど悲しむわよ。」
ゆりたちの言いたい事は分かっている。
俺は、俺とあの二人のために、『日常』に戻るべきなのだ。
それはいい。俺は最初っからそのつもりだった。
だが。
こいつらは、戻るつもりがない。
戻らない覚悟を、決めている。
「お前ら、人のこと言えんのかよ。」
「何?」
「じゃあお前らは、俺の気持ちを考えたか?あいつらのことを考えたか?あいつらが待ってるのは、俺だけじゃないんだぜ?俺の身にもなってみろ。全員一緒にどこかへ行って、帰ってきたのが俺一人ってなっちゃぁ、俺がどんだけ詰問されると思ってるんだよ。ふざけんな。隠し通せる訳ねぇだろ。全員で戻りゃ少しは違うだろうよ。あいつらは察しが良くて気が利くからな。それに何より、俺の事はどうすんだよ。ああ。確かに初めは強引だったさ。だがな、今、俺はお前らのことだって、家族だと思ってるんだよ。それなのに何だ?俺だけ戻れだ?ふざけんな。俺は全員でなきゃ戻らない。そして全員で戻って、あいつらを安心させてやる。」
俺の最大目標は、雫を幸せにしてやることだ。
だが、全員で戻らなければ、あいつは幸せにはなれないだろう。
そういう観点から見ても、俺は、こいつら全員を引き摺ってでも戻らなきゃならない。
俺の言葉に、ゆりは。
これ以上なく、呆れたような顔をしていた。
「あんた、戻れなくなるわよ。それでもいいの?」
「ああ。」
「これがラストチャンス、最後通告よ。全うな世界に戻りたいなら、車を降りなさい。」
「嫌だ。俺は全員であそこに戻る。愛すべき日常に。」
ゆりは、深い溜息を吐いて、『勝手にしなさい』と言い、煌に車を出すように命じた。
車を出しながら、煌が呆れたように言った。
「お前も物好きだよな。それとも、ただの馬鹿なのか?」
俺は、それに答える。
「かもな。だけどさ。」
俺は、いつも思っていることを言う。
「このメンバーなら、帰れない戦場なんてないだろ。」

続く