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表と裏の狭間には 最終話―戻れない日常(後編)―

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「そしたら、いきなり銃を置いてな、オレの前にしゃがみ込んで、聞いたんだよ。『あなた、何者?』ってな。」
「へぇ。」
「そこでオレは、すごく興味を惹かれたんだよ。こんなわけの分からん化け物相手に、目を合わせて話しかける度胸にな。」
「あー、それは分かる。」
確かに、あいつのほうが何者だって話だ。
「それで、オレはアークに入ったんだよ。」
「あー、それで、一緒に戦ううちに惚れた、と。」
「まあ、間違っちゃいないな。当時のあいつは本当に凄かったぞ。その研究所に一人で殴りこんだことといい、自暴自棄っつってもあながち間違いじゃない勢いでな。チラッとでも霧崎の影が覗けば、すぐに飛び込んで行くんだ。自分の命も顧みずに、な。そんな奴だから、オレ以外にあいつに付き従う奴なんていなくてな。上司の方も、もう手綱を握るのを諦めてやがった。」
「そんなだったのか?」
「ああ。当時はな。でもま、一緒に戦う奴のことは、そこそこ気にかけていたみたいだぜ。『あんたも物好きな奴ね』とか散々言われてたけどな。」
「それはゆりらしいな!」
それが可笑しくて、少し笑ってしまう。
「だろ?」
煌も可笑しいのか、笑っている。
「んでま、オレがあいつにマジで惚れるきっかけってのがあってだな。」
「ああ。」

「ぶっちゃけ、捕まっちまったんだ。敵に。」
「へぇ?お前が?」
「ああ。当時は今ほど強くなかったんだよ。で、あっさり捕まった。」
「へー。」
その時のオレは、ゆりと別行動をとっていた。
そうしたら、不意を突かれて、あっさりと。
「あん時は今ほど力が使えなくてな。で、オレを捕まえた連中が、アークとなにやら揉めてたらしいんだよ。で、そいつらの会話を聞いてるとな、どうも俺は、見捨てられることになったらしいんだ。」
「そうなのか?」
「ああ。」
その時のオレは、今ほど強くなく、組織の中でも、重要度の低い雑兵だった。
取引の詳細な内容がなんだったかは知らないが、見捨てられたとしても不思議ではない。
「まあ、今オレがここにいるってことは、その時死ななかったってことだがな。」
「まあ、そうなるな。………って、まさか!」
「ああ。そういうことだよ。」
その時、オレは今度こそ死んだと思った。
輝と耀を放ったまま死んでゆくのかと思った。
だけど、それは間違いだった。

「………チッ。連中は何をもたもたと!」
「まあ落ち着け。奇襲を受けたら元も子もないだろう。警戒しておけ。」
「奇襲など、あるわけないだろう。」
「馬鹿!一体いくつの組織があいつらに潰されてきたと思っているんだ!」
「下手に手を出しちまった以上、もう後には退けねぇんだよ!」
そんな会話が交わされている。
口を塞がれ、手足を縛られ、床に転がされているオレには、それを眺めるくらいしかすることがなかった。
縄抜けの技術があるわけでもない俺は、こうも完璧に縛られてしまうと、抜け出す事はできない。
だから、助けを待つしかないのだが……。
連中の会話を聞く限り、どうも芳しくなさそうだ。
助けが来なかったら………。
ほぼ確実に、オレは殺されるだろう。
そんなことになりでもしたら………。
輝と耀が………ッ!
あいつらのことを知ってる奴なんていないし。
オレが死んだら、誰があいつらを………。
下手をすれば、また施設に逆戻りする可能性すら……!!
「………敵襲!敵しゅ……ぐあっ!」
突然、銃声が響いてきた。
……銃声と言うよりは、マシンガンの音に近い?
爆発音も混ざっている。
………どういうことだ?
「おい!何事だ!?」
「敵襲!応援頼む!!」
「チッ、来やがったか!」
にわかに室内が慌しくなり、ここの連中がどんどん外へ出て行く。
だが、銃声は次第に大きくなり、連中の悲鳴も多くなる。
そして。
バンッ!と、凄まじい音がして。
扉に、穴が開いた。
「………スラッグかよ!」
誰だか知らんが、無茶をしやがる!
そのまま、バン!バン!と弾数は増え、そのうち扉は倒れてしまった。
……当たらなかったから良かったようなものの、オレの傍にも何発か着弾したぞ。
そして、扉の向こうから現れたのは………。
「………楓、か?」
「……………。」
ゆりは、まずショットガンとマシンガンを連射し、室内にいた連中の残りを全滅させた。
そのまま、銃をそこいらに放り投げると、オレのところへカツカツと歩み寄る。
そのまま、無言でオレの手足を縛っていた縄を解き、口を塞いでいたテープを剥がす。
「…………ああ、その………ありがと――」
いきなり頬を張られた。
何があったのか分からなかったが、とりあえず横を向いた顔を正面に戻すと――
「心配させるんじゃないわよ!この馬鹿!!」
涙眼になっているゆりがいた。
「あたしがどれだけ探し回ったと思っているのよ!この建物の中全部よ全部!!どれだけ心配したと思ってんのよ!本当に………心配したのよ!!」
「あ、ああ…………すまなかった。」
「謝った程度で済むとか思ってんじゃないわよ………!あんたなら、あたしの『家族』になれるかもって思ってたのに………死んだら全部おじゃんじゃない!ただでさえあたしについてくる仲間なんてあんたしかいないのに、勝手に死ぬんじゃないわよ!!勝手にあたしを孤独に追いやるんじゃないわよ!!」
言ってる事は完璧に支離滅裂だが、まあ、気持ちは嬉しい。
だが、家族って何だ?
「………あたしの仲間、いえ、一緒に歩んで行ける人のことよ。昔からずっと探していたのよ。あたしの目的を、一緒に達成してくれる人を。結婚とか、そういう意味じゃないからね。あくまで気持ちの問題よ。それに、あんただけってわけでもないわ。他にも何人か、探さなくちゃいけないのよ。でも、その第一号はあんたよ。光栄に思いなさい。」
「…………?」
言っていることがよく分からなかった。
すると、ゆりは不意に微笑んだ。

「生きていてよかったわ。あんた、これからもあたしと一緒に戦いなさい。よろしくね。」

その、笑顔に。
完璧に、釘付けにされた。

『そんなことがあったのか。』
『ああ。……当時のオレは、もしかしたらあいつに仲間と思われてないんじゃないかって気すらしてたんだがな。』
『あー、なるほど。大体分かった。ギャップで落ちたか。』
『いや、そういうわけでもないんだがな。まあ、色々あってな。それで今に至るんだ。まあ、ざっくばらんに言っちまえば、笑顔に惚れた、ってやつなのかもな。』
『ふうん。いい話、なのかねぇ……。』
………………。
何を話しているのよ。
戻ってきてみたら、あの二人があたしの話をしてるのよ。
入れるわけないじゃない!
こっちが恥ずかしくなってくるわ。
『……まあ、そんなわけで、オレはあの時以来、あいつについて行くって決めてんだよ。何があってもな。』
はぁ………。
「…………馬鹿。だからあんたは一体何なのよ。」
あたしも、いい加減応えてやるべき、なのかしら………?
ええい!
そんなこと今は関係ない!
さっさと指揮に戻るわよ!

「………そろそろ頃合かしら?」
午前八時を回った頃。
ゆりが、そんな事を言った。
「頃合?何がだ?」