「姐ご」 7~9
「姐ごと厩舎と瓦屋さん」(8)
総長が倒れる
やきもち騒動からほどなく、総長が倒れました。
幸いにして一命は取り留めたものの、病状からしての長期入院が決まりました。
姐ごのつきっきりの看病が始まります。
本妻は倒れたその日に着替え用にと、寝巻きと下着を届けただけで、
その後は一向に顔も姿も見せません。
総長の容態を伺う電話一本すらかかってきません。
入院から二週間ほどした病院へ、瓦屋と蹄鉄師が顔をだしました。
気配を察した姐ごが、いち早く病室を出て、この二人を
人気のない廊下の奥まで手招きをします。
「何に考えてんのさ、二人して。
だからぁ・・・・
不良が入院している病院へ、
のこのこ二人で、やってくる必要なんかないはずでしょう。
ここは、あんたたちが顔を出してはいけない場所なのよ。
まったく、堅気のくせに、
やくざ屋さんの世界に義理立てをして、いったいどういうつもりなの?
心配しないで、朱美と呑んでいればいいのよ。
さァさぁ、何もないうちに早く帰った、
帰った」
「しかし姐さん、
おれらもずいぶん総長には世話になったし、
付き合いもあるしことだし・・・・
第一姐さんの手前、
しらばっくれている訳にもいかないから、
瓦屋と二人で、
こうしてお見舞いに参上したというわけで・・・」
「だから、それが余計なことだと言ってんの。
この世界のひとたちは、お金もちだから、
お付き合いの、金額自体も違えば、しきたりなども厄介なのよ、
第一、ひとたびお付き合いが始まれば、
なんやかんやと、とことんお金がかかる世界なの。
わかってんでしょう、そんなことくらいは。
あたしのことなら心配しないで、
瓦屋さんと二人で、お店の方で、呑んでて頂戴。
後で私も、顔だしますから」
姐さん、と後ろで呼ぶ若い者に「すぐ行くから」と返事を返した姐ごが
すれ違いざまに、瓦屋に耳打ちをしました。
「あんたまで倒れないで頂戴ね
パパは歳だから、仕方がないけれど、
あんたまで倒れたら、あたしが本気で泣くからね。
大事にしてよ、
い・ち・ど・しかない人生」