「姐ご」 7~9
携帯電話が鳴りました。
「美理と人情を秤にかけりゃ・・・」、姐ごの呼び出し音は、任侠ものです。
「あらぁ、パパぁ、
どうしたのさぁ~、今頃。
ううん、お店にいるのは蹄鉄屋さんと、屋根屋さんだけよ~
朱美ちゃんが開けてくれたので、あたしも早目に出てきたの。
どうしたのさぁ、
今日は、遅くなるわけじゃぁなかったの?」
しつこい電話になりそうな気配がしてきました。
姐ごが立ち上がり、瓦屋にウィンクを一つ見せてから、
化粧室へと消えていきます。
「総長だ。
とにかく半端じゃないやきもち焼きだから、
たいへんだわよ~」
瓦屋の背後へ、朱美が忍び寄ってきました。
瓦屋の肩へぴたりと顔を寄せると、そう意味深に片目をつぶって見せました。
装蹄師も興味を示したのか、瓦屋の横へにじり寄ってきましす。
すさまじい音を立てて化粧室の度が閉まり、荒い足音を立てて、
姐が化粧室から飛び出してきました。
「だからっ、何もないっていってんでしょ!
まったく、しつこいなぁ。
火の無い所に煙は立たないって、・・・なぁに馬鹿言ってんのさぁ!
煙どころか、湯気も出ていません。
なんで、あたしと瓦屋ができているのさ、
ばっかじゃないの。
大の総長が本気になって、なに言ってんのさ、ば~かばかしい、
いい加減にしないと、本気でおこるわよ、パ・パ・ァ!」
すごい剣幕で姐ごが、まくしたてています。
携帯が折れんばかりに乱暴に切ると、くるりと向きを変えた姐ごが、
瓦屋に強い視線を向けました。
「まったく、ばかばかしいったらありゃしない。
やきもち焼きのクソじじぃが、
あたいとあんたのことを疑ってんだってさ・・・・どうする? 」
あおるような目線が、じっと瓦屋の顔を覗きこんできます。
「勘弁してくれよ」と瓦屋が言いかけた時、 バタンとドアが開く音がして、
先ほどまで噂していた当の調教師・工藤が現れました。
見るからに、旅じたくのままでした。
北海道から戻ったとこだよ、とそのままボックス席を通り過ぎて
疲れたように、カウンターの自分の指定席へとへたり込みました。
あらあらお疲れで大変ねと、姐ごが熱いおしぼりを手にした瞬間でした。
今田は、猛烈な音とともに入口のドアが全開になり
血相を変えた総長が、息を切らせて現れました。
あらまあ、今日は、千客万来だ・・・
姐ごが口に手をあてると妖艶な目で、瓦屋をしっかりと見つめながら
元気よく笑い始めてしまいました。
(8)に続く