「姐ご」 7~9
スナック「和」での、瓦屋と装蹄師の会話です。
姐の姿は、まだまだ店内には見えません。
それもそのはずで、この二人はまだ午後の5時過ぎたばかりだとというのに
暇をもてあましたあげく、早々ともう呑みはじめているのです。
朱美が、二人の会話に割り込んできました。
「ねぇ~、退屈だよ。
せっかくお店を開けてあげたのに、
なに二人で、さっきからこそこそ話ばかりをしてるのさぁ。
パァ~っとやろうよ、ねぇえ~ったら。」
「お前の頭だけだろう、パァ~としてるのは!」
この朱美という女の子がお気に入りの装蹄師は、
そう悪口をたたきながらも、しっかりと朱美の肩を引き寄せました。
「夜の仕事を始める前に俺と、いいことをするか?」
「なぁに馬鹿言ってんの。
まだ日も暮れていないというのに・・・
なにか他に考えることないの、このド助べえ!」
「よく言うぜ。
俺に抱かれて、白眼を見せてヒイヒイ喜んでいたのはどこのどいつだ。
いまからたっぷりと、可愛がっても良いんだぜ。」
「こらこら、
そこの紳士の二人連れ。
秘めごとというのは、密やかにやるからこその、秘めごとよ。
明るいうちから、妙に発情しないでね」
いきなり姐ごが登場しました。
その声を聞いた瞬間に、装蹄師があわてて直立不動で立ち上がります。
「ば~か」瓦屋が頬杖をついたまま、そんな装蹄師を見上げて笑っています。
「あんたもさぁ・・・・
こんな早い時間から、こんなくだらないどスケベと飲んでてどうするの。
まったく、颯爽と仕事をしていた屋根職人さんは、一体どこに消えたのさ」
「おいおい、藪蛇だな」
にっこりと笑いながら、姐ごが瓦屋の隣に腰をおろします。
姐ごの目線が、瓦屋の煙草にとまりました。
素早く一本を引き抜いた瓦屋が、慣れた仕草で姐ごの口もとに運びます。
「工藤ちゃん所の、噂話?」
ふう~と、姐が、天井に向けてゆっくり煙を吐き出しました。
ぽっかりと丸く広がった煙の輪を、瓦屋が指ですかさずかき乱しました。
・・・姐ごが目を細めて、そんな瓦屋の横顔を見つめています。