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「姐ご」 4~6

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 次々に人が去り、廃墟同然になりかけた
厩舎の片隅で「工藤」厩舎の競争馬の育成が始まりました。

 扱う馬は、南関東の浦和や船橋、大井などの
地方競馬場に引き取られた行く前の、
産地から来た育成馬と呼ばれるデビュー前の若駒たちです。
2歳まで産地の牧場で育てられてきたこの若駒たちに、
競走馬としてここで最初の調教を始めます。
半年から1年間をかけて、競走馬としての調教が済むとデビューのために、
各地方競馬の厩舎に送り込まれました。



 有望な馬は、最初から中央や有力な調教師たちに引き取られますが、
そのための費用の全額を出すのが、馬主と呼ばれるひとたちです。
それとは別に、少額から参加が出来る「一口馬主の会」
の会社が有りました。
多くの個人から資金を集めて会社が産地などから
馬を買い集め、育成と調教をしてから、
それぞれの競馬場にデビューさせる方法でした。
「工藤」が選択したのがこの育成期間の担当でした。




 もうひとつ、高崎競馬の復活を
願いながら地道に育成を続けるグループもありました。
模擬レースなどのイベントを続けながら、競馬人気の復活を期待して、
地道に厩舎を維持し続ける団体です。
しかしいずれを選んだにせよ現時点では、
どちらも不安定で先の見えない選択でした。



 「工藤」の厩舎に、装蹄師と瓦屋さんが顔をだしました



 「よお、景気はどうだ調教師。」


 「日光の手前、いまいちだ(今市)」



 「冗談を言えるくらいなら、とりあえずは大丈夫だな。
 俺のほうは全国行脚だよ、
 地方競馬じゃどこも使ってくれないから、
 あちこちの乗馬クラブを掛け持ちしながらの仕事ばかりだ。
 移動ばかりで俺の仕事の大半は、運転中の車の中さ。
 喜ぶのは、ガソリン屋だけだ」



 「お前も、悪たれがいえるくらいならまだ大丈夫か。
 儲かっているのは瓦屋だけか、
 なあ、瓦屋。」


 「馬鹿野郎。
 公営ギャンブルが潰れる時代だぜ、誰が家なんか建てるもんか。
 あるのは軽い修理ばっかりだ。
 瓦屋殺すには刃物はいらぬ、
 家を建てなきゃ・・・日本の「梨」じゃなくて、
 まったくの「洋ナシだ」、
 まいったぜ、まったく。」


 
 「で、どうするんだ、この先。
 競馬場の復活を願って頑張っている奴らもいるが・・
 どうするんだ、工藤、お前は?」


 「まだ決めていねえ。、
 調教師の資格はとったものの、高崎競馬はもう復活はしねぇしな。
 中央の育成を手伝ってくれと言う話が舞い込んできた。
 とりあえず、手伝おうとは思っているが・・・」


 「何だ、乗り気じゃねえのか、
 悪い話ではないだろう、中央が相手なら」


 「うん、近いうちにその会社から、一人来ることになっているんだ。
 そいつの話を聞いてからでも遅くないだろと
 考えているところさ」



 「開店休業の調教師と、ドサ回りの装蹄師か。
 全く仕事の無い俺から見れば、まだいくらかはましというもんだ。
 えっ、競馬関係者の諸君! 」



 「言ってくれるね~、瓦屋。
 どちらを向いても、赤貧洗うがごとしだ。
 まァ、ジタバタしたところで、貧乏暮らしに簡単に切りがつくわけでもなし、
 なるようにしかならんだろう・・・
 一杯やるか。」

 「なんだいその赤貧なんとか・・・てのは。」

 「仕事の無い瓦屋と、
 稼ぎの悪い調教師や装蹄師のことだ。
 三人そろって「赤貧」組だ。
 そうだな、じたばたしてもしかたねえ、
 呑むか、おい。」


 「そうだろう、
 まぁお互いにじたばたしても仕方ねえや、一杯やろうぜ」

 「おう、そのつもりで遊びに来たんだ。
 悪いなぁ調教師、とりあえず俺はゴチになるぜ!」


(5)につづく


作品名:「姐ご」 4~6 作家名:落合順平