ブローディア春
松前漬けと白いご飯をおやつにしながら二人で半分寝かけていたころ、布団の上に転がっている石間が、俺の腰らへんをぐっとつかんだ。
「木野」
「なんだ」
「セーラー服」
「ああ。年賀状?」
べりっと石間のでかい手をひっぺがして、俺は少し横に移動する。お茶を一口のんで、大好きな松前漬けの中のイカを狙って箸をつける。
「木野ねむい」
「うん」
コリコリしていたり、プチプチしていたり。そんでまた白いご飯を頬張った。
「木野ぉー」
「なんだよ」
「だからセーラー服」
「が、なに……」
三好の年賀状に写ってた自分を思い出す。ケータイの写メを引き延ばしたらしくて画像は粗いが、上目遣いでふてくされているのは明らかに俺だった。
「何だよ」
「何の話だ」
「なんで着たんだって話」
「別に、ノリで」
そうそう、三好は、三好の兄貴が野球チームをぬけたからと貰ったユニフォームをウチに持ってきてて。仮装大会するなら俺は三好の胴着を着てみたかったんだけど却下されて、妹の中学の制服をなんとなく着てみたんだった。
「妹、むかし太っててさ。サイズ変わったから2着持ってるんだ」
「木野貰ったわけ」
「貰ったっていうか、まあタンスには入ってるけど」
「まじですか」
半分寝ていたくせに、石間は飛び起きて俺にしがみついてきた。目が輝いている。
クールな石間もいいけど、優しい石間もいいけど、こういう石間もいい。仲間内ではこんな感じっぽいようだけど俺にはふざけたような態度はみせないから。少し物足りないというか。これもヤキモチなのか。
「着てみる? 制服」
「みるみる!」
俺はふと思う。なんか自分だけってのもなあ。
「着たら俺の言うこと聞いてくれるんならいいよ」
「なんでもするって。逆立ちして町内一周でもするって」
普通に出来そうだからつまんないよな。
「んじゃ向こう向いてて」
「おう」
ごそごそ ばさっ
しゅるっ カサカサ ジーッ
しゅるしゅるっ ゴソ
「着た」
「……」
呼んだのに、もう振り向いていいんだけど、石間は動かない。
「石間」
「うん」
「もしかして……窓に映ってるの見てたのか」
「悪い、つい……」
ようやく振り向いて、あぐらをかいたまま視線をあげる。あがって、目が合う前に下がって、ぎょろっとして今度こそ目が合う。
「まじないわ」
「現実なんてこんなもんだよ。脱ぐよ」
「いや違うってだめだめだめ!」
「ええ?」
「ちょいこっち来て」
「うん」
石間の正面にあぐらをかいて腰を下ろしたら、石間はそっぽをむいたまま俺の足を掴んで靴下を引っ張った。
「あーー」
ずびーっとして、足につけてたブレスレットにひっかかって脱げる。変な感じ。石間の腕に手をやると、ぽいっとやった石間の手が俺の二の腕辺りをさまよう。
「めっちゃ可愛い」
「可愛いかあ」
「すっげ似合う」
「まあ妹が似合ってるくらいだし」
「あぐら辞めねえ?」
「は」
「見えてんだけど……」
「え」
パンツ! そう言って顔を覆った石間。なんか……可愛いな。
「なあなあ石間」
「聞けよ!」
「約束」
「え?」
「俺のいうこと聞くって言っただろ」
「俺も条件がある」
「なんだよ」
「まず写メな」
どこからか出てきた石間の携帯からバシャッという音が聞こえてきた。びっくりした。
「もういいのか。撮れた?」
「あともいっこ」
「えー」
「はい、もっとこっちきて座って。俺イス座るから……」