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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア春

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 今年はあんまり、年賀状来てない。

「元々多くはないけどさ」
「ふーん。てか俺出してないや」
「ホント? 石間んちにきっと俺の届いてるよ」
「マジ。すっげ」

 なにがすごいのか、石間は後ろから長い腕で俺をきゅっと締め付けた。

 最近はメールなんだって。知ってたけど、ホントだったのか。もしかして俺にくれた人たちも実はメールなのに、わざわざ気をつかってくれてたりして。
 ケータイ。欲しいかも。

 石間っていつも後ろにいて、俺からは見えない。立っていても顔を上げなきゃ表情見えないし。不利だ。

「じゃあ俺から年賀状ね」
「え?」

「もももも」
「んわー」

 ほっぺたに話しかけられても、何言ってんだかわかんないよ。

 石間はそのままベロベロしだした。汚いはずの唾液が、イマドキの男・石間というだけで大して気にもならないのが凄い。

 気にはなるけど、違う意味でだ。

 俺はいまだに手に持っていた年賀状を床にそっと伏せて置いた。
 しかしそれはすぐに石間によってひっくり返されることとなる。

「みーたーぞー」
「スルーするのが大人だろ」

「大人じゃねー」
「そうか」
「ひめはじめしてないもん」
「そうだな」

 年賀状には、下の方に『ミヨシ』と書いてあった。あいつは自分のリターンアドレスとやらを書かない。たしか去年もそうだったな。
 そんなことはどうでもよくって。
 石間はそれを細い筒状に丸めて、ボキッと折った。

「あーっ!」
「こうしてやる!」

 ついでにもう一回折った。

「ひでえぞ石間!」
「だってあんまりだ! なんだよこれ!」
「そんなのこっちが聞きたいよ! これ見た母さんにどんな顔されたと思ってるんだ!」
「三好にもおばさんにも見せたくねえし!」

 はあ!?

「なんで三好の年賀状の写真が、木野のコスプレ写真なんだっ!もう俺無理だからな!公表!するからな!」
「公表?」
「木野は俺のだって!」

 ぼかっ

 石間を殴って座らせて、俺はなんだか切なくなって、変な形になった年賀状をゆっくりと開いていった。

「三好はへんな冗談するから」
「……そんなん知ってっケド」

 会話が無くなってしまう。
 おろおろしながら、でも俺は悪くないよなとか思う。
 お付き合いしてる人達ってどういう会話をするんだろ。ムカつく~とか言いつつラブラブだったりするけど、ケンカしてこの最悪な雰囲気をどうラブラブに出来るんだろう。
 大人たちは茶髪の人達をアーダコーダ言うけど、俺には不思議な凄さを感じるんだよな。

「ごめん」

 え。
 石間がごめんって言った。
 だけなのにドキドキしている俺がいる。
 これがラブラブに入るスイッチなのかな。ぜんぜん、簡単な事っぽい。それか俺が大人になったのかな。

「俺もごめん」

作品名:ブローディア春 作家名:しらとりごう