ブローディア春
今年はあんまり、年賀状来てない。
「元々多くはないけどさ」
「ふーん。てか俺出してないや」
「ホント? 石間んちにきっと俺の届いてるよ」
「マジ。すっげ」
なにがすごいのか、石間は後ろから長い腕で俺をきゅっと締め付けた。
最近はメールなんだって。知ってたけど、ホントだったのか。もしかして俺にくれた人たちも実はメールなのに、わざわざ気をつかってくれてたりして。
ケータイ。欲しいかも。
石間っていつも後ろにいて、俺からは見えない。立っていても顔を上げなきゃ表情見えないし。不利だ。
「じゃあ俺から年賀状ね」
「え?」
「もももも」
「んわー」
ほっぺたに話しかけられても、何言ってんだかわかんないよ。
石間はそのままベロベロしだした。汚いはずの唾液が、イマドキの男・石間というだけで大して気にもならないのが凄い。
気にはなるけど、違う意味でだ。
俺はいまだに手に持っていた年賀状を床にそっと伏せて置いた。
しかしそれはすぐに石間によってひっくり返されることとなる。
「みーたーぞー」
「スルーするのが大人だろ」
「大人じゃねー」
「そうか」
「ひめはじめしてないもん」
「そうだな」
年賀状には、下の方に『ミヨシ』と書いてあった。あいつは自分のリターンアドレスとやらを書かない。たしか去年もそうだったな。
そんなことはどうでもよくって。
石間はそれを細い筒状に丸めて、ボキッと折った。
「あーっ!」
「こうしてやる!」
ついでにもう一回折った。
「ひでえぞ石間!」
「だってあんまりだ! なんだよこれ!」
「そんなのこっちが聞きたいよ! これ見た母さんにどんな顔されたと思ってるんだ!」
「三好にもおばさんにも見せたくねえし!」
はあ!?
「なんで三好の年賀状の写真が、木野のコスプレ写真なんだっ!もう俺無理だからな!公表!するからな!」
「公表?」
「木野は俺のだって!」
ぼかっ
石間を殴って座らせて、俺はなんだか切なくなって、変な形になった年賀状をゆっくりと開いていった。
「三好はへんな冗談するから」
「……そんなん知ってっケド」
会話が無くなってしまう。
おろおろしながら、でも俺は悪くないよなとか思う。
お付き合いしてる人達ってどういう会話をするんだろ。ムカつく~とか言いつつラブラブだったりするけど、ケンカしてこの最悪な雰囲気をどうラブラブに出来るんだろう。
大人たちは茶髪の人達をアーダコーダ言うけど、俺には不思議な凄さを感じるんだよな。
「ごめん」
え。
石間がごめんって言った。
だけなのにドキドキしている俺がいる。
これがラブラブに入るスイッチなのかな。ぜんぜん、簡単な事っぽい。それか俺が大人になったのかな。
「俺もごめん」