ブローディア春
「うわーっ!」
「いてっ」
ファスナーを探りだした石間の手を無理やりほどいて後ろを向いた。あんなにキツかった腕がスルッとほどけて……ジワリといやな汗が浮かぶ。
拒んじゃった……ってやつなのか?
恐る恐る石間の顔を見てみたら、怒ってるような悲しんでるような表情で……
「あ…」
近所のお寺で、除夜の鐘がなってる。不吉なカウントダウンみたいで、胸が苦しくなって。でも石間が意味分かんないこと言ってきたんだぞ? そ、それにしては俺の対応は冷たかった……のか? でもでも怒んなくたっていいだろ。石間、怒ってる……。
「石間っ」
「え、木野!?」
思わず飛び付いてしまった。
石間の声が変なふうに喉から漏れて、我にかえる。なにやってんだ俺。年越し一緒にしたいし。だからって、意味分かんないまま抱き付いてさ、意味分かんないよ。
「石間、そんな変なこと言うなよ」
「……変じゃない」
「石間意味わかんねえもん」
「わかれよ」
「はあ?」
「はあじゃねえし。木野……女の子みたいだろ?」
お ん なぁ?
べしっと胸を押して体を剥したら、石間が……拗ねていた。
「ここは石間が拗ねるところじゃないだろう」
「拗ねる? 俺が」
「ここは俺がキレるとこだから。石間ひでえし」
「ヒドイのは木野だろ!」
「ヒドイ? 俺のこと信頼も信用もしてないくせに!」
「木野がそうさせるんじゃん! 三好とエロビ見るから!」
「三好とエロビ見たらなんなんだよ! 石間は見ないのか!」
「見るけどな! 三好と見るなよ三好とは!」
「俺の部屋にテレビ無いの知ってるだろ!」
「俺の部屋だってテレビねーよ! 三好とエロビ見てんじゃねーよっ!!」
ガチャッ
「お兄ちゃん、めっちゃ聞こえてる」
パタン
「………。」
「………。」